新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ロイヤル・マリーンの死闘(WWⅠ)

 1993年発表の本書は、英国の冒険作家ダグラス・リーマン後期の作品。作者の作品は、これまで「志願者たちの海軍」など4冊の長編を紹介していたが、いずれもWWⅡを題材にしていた。本書はWWⅠが舞台。実は3部作の最終作品で、

 

・緋色の勇者 1850~55年の西アフリカからクリミア戦争

・黄土の決戦 1900年の中国(義和団事変)

 

 が先だって発表されている。いずれも英国のブラックウッド家の戦士が登場し、本書でも海兵隊員のジョナサンが主人公。前後半の二部構成で、

 

・第一部 1915年のガリポリ上陸作戦

・第二部 1917年のイープル塹壕

 

 でジョナサンが闘う物語だ。「黄土の決戦」で亡くなったデビッド・ブラックウッド少佐の弟ジョナサンは海兵隊に入隊、大尉として中隊の訓練を続けていたが、新鋭巡洋戦艦<リライアント>(*1)に乗って地中海をトルコに向かった。黒海にいたる2つの海峡を制覇するのが目的の作戦だったが、防御陣地に立て籠もるトルコ軍に手を焼き、上陸したニュージーランド・オーストラリア軍がおびただしい被害を出した。

 

        

 

 ジョナサン達も上陸して戦うのだが、死体を後送することもできない乱戦に陥る。多くの仲間が死に、ジョナサンは代理大隊指揮官として奮戦するも重傷を負う。

 

 約一年間病院で過ごした彼は、故郷に戻って兄を慕っていた医師の娘アレックスと愛し合うようになる。しかし勇猛を買われた彼は中佐に昇進し、今度は大陸、イープルの塹壕戦で大隊を指揮することになる。ここでも毒ガスや火炎放射器短機関銃、手榴弾などを駆使するドイツ軍相手に、多くの部下が死んでいく。2マイル前進するために2万人以上の犠牲を出す悲惨な闘いだ。

 

 2つの悲劇的な戦闘で、WWⅠがいかに欧州人の心を蝕んだのかを示してくれた大作(500ページ)です。一方で、WWⅠまでは「貴族の戦い」だったことが、ジョナサンが従卒を連れて戦地に赴くシーンで理解できました。できれば前2作も読んでみたいです。

 

*1:15インチ砲6門、同型艦にWWⅡ初頭に沈んだ<レパルス>がある。