新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

神話となった共産主義の世界

 昨年アリステア・マクリーン第二次世界大戦三部作の最後「シンガポール脱出」を紹介したが、それに続く作者の第四作が本書。ハンガリー動乱から2年後の1959年に発表されている。舞台は氷雪が舞うハンガリーソ連の抑圧が強化され秘密警察AVOの影に民衆は怯えている。

 

 弾道学の権威ジェニングス教授は、妻子を人質にされて英国からソ連に渡った。彼を奪還すべく、英国情報部はレナルズ大尉を単身派遣する。モスクワでの警護は厳重だが、教授が学会で訪れるブタペストなら機会があると読んでのことだ。情報部マッキントッシュ大佐は、旧知のウクライナイリューシン退役将軍とその仲間に期待をかけていた。

 

        

 

 かつて独ソ戦の折、解放者としてのドイツに味方して戦ったウクライナ兵は100万人。イリューシンは総指揮官の右腕だった。戦後苛烈な拷問にあって両手に重度の障害を負った彼だが、秘密裏にAVOやソ連に対抗する組織を作っていたのだ。

 

 すでにスターリンは死んでいたが、ウクライナ人にウクライナ人を、ハンガリー人にハンガリー人を殺させる恐怖政治は続いていた。イリューシンがレナルズに言う言葉が重い。

 

共産主義はすでに神話になった。レーニンは今のソ連・東欧を見て嘆くだろう

・恐怖政治も仕方ない。ソ連そのものも、西欧から日韓にかけて展開する核武装した米軍機に怯えている

 

 頑固な老教授の救出は何度も挫折するが、イリューシンの部下で伯爵と呼ばれる変装の名人のおかげで、レナルズは生き延びる。ついに老教授を確保した彼らだが、AVOハイダス大佐は対戦車砲搭載ハーフトラックまで動員して追いついてきた。

 

 戦闘・格闘などのシーンは平板、これは昨今の「暗殺者シリーズ」などに慣れてしまっているからかもしれない。一方恐怖政治については、ヴィヴィッドに表現されているし、イリューシンらの半ば哲学的な言葉が沁みとおって来る。

 

 スパイスリラーなのですが、本質は歴史小説のような感じがしました。