2015年発表の本書は、ミルウォーキー在住の作家ニコラス・ペトリのデビュー作。国際スリラー作家協会賞など、複数の賞を獲得した作品である。以前紹介した「NCIS」のビデオでも再三イラクやアフガンからの帰還兵の悲劇が描かれる(ギブス自身帰還兵である)が、テロとの戦い20年戦争は米国社会にいくつもの難題を産み、そのひとつが帰還兵問題である。
本書の主人公ピーター・アッシュ元海兵隊中尉は、ノースウェスタン大学で経済学を学び、ゴールドマンサックスに就職が内定していた。しかし9・11テロが起きて愛国心から士官学校に入る。8年間イラクとアフガンで闘い、運よく生き残ったものの帰国するやPTSDを発症する。

屋根のあるところに入ると、動悸が激しくなり頭の中が真っ白になる。重症の閉所恐怖症なのだ。除隊した彼は、故郷のミルウォーキー近くの森で、1年間野宿を続けていた。そんな彼に、戦地で部下だったジョンソン元軍曹が自殺したとの連絡が入る。未亡人ダイナと子供2人の残る家を訪問したアッシュは、家の補修を手伝ううち40万ドルの現金と爆薬を発見する。
しばらく前からダイナの周りには怪しげな影が見え隠れするし、ジョンソンの遺品からは分不相応な高級ペンが出てくる。ジョンソン自身も、PTSDを病んでいたことがわかる。登場人物の多くが帰還兵、というのはミルウォーキー郊外のこの街には帰還兵くらいしか戻ってこないのだ。
一方で市の中心地には、金融機関が入る高層ビルが立ち並んでいる。物語の中盤に投資会社のCEOが登場し「当社は50万ドル以下の投資は扱っておりません」とうそぶく。わずかな年金でさまよっている(原題:Drifterの意)帰還兵と、濡れ手で粟の稼ぎをするケダモノ金融業者が対比的に描かれる。
アクションシーンはさほどでもないですが、ヴィヴィッドな社会派ミステリーでした。続編が出ているようなので、探してみます。