新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

伝えたい人にだけ伝えるには

 1947年発表の本書は、レイモンド・T・ボンドの編集による暗号を用いた短編ミステリー集。21編と、巻頭にボンドの暗号論、巻末に江戸川乱歩のエッセイが収録されている。ボンドは、真珠湾攻撃の前に在米国大使館の来栖大使と本国の電話(傍聴)録を引用して、かくも責任ある人たちがプライベートコミュニケーションが出来ていなかったことが信じがたいとしている。

 

 古来、言語は他の民族にとっては暗号のようなもの。しかしGlobal化が進むなどして、伝えたい人にだけ伝える技術として様々な暗号が用いられたとボンドはその歴史を述べている。乱歩は37例の暗号ミステリーを分類し、割符法・表形法・寓意法・置換法・窓板法・代用法・媒介法があったとしている。

 

        

 

 オースチン・フリーマンの「文字合わせ錠」では、宝石窃盗事件の元締めが愛用していた14兆通りの文字合わせをしないと開けられない金庫に、ソーンダイク教授やミラー警視らが閉じ込められてしまう。あわや窒息死かと思われたが、博士が魔法のように扉を開けて見せる。これは代用法の一例である。

 

 ほかにも懐かしかったり、驚かされる作者の名前が並ぶアンソロジーである。M・D・ポーストの「大暗号」には、残念ながらアブナー伯父は登場しない。評論家・編集者と思っていたアントニー・バウチャーがミステリーを書く方もやっていたのには驚いたが、「QL 696・C9」はあまりいい出来とは思えない。O・ヘンリーは意外性の王様だが、「キャロウェイの暗号」はそれなりに面白かった。

 

 やや広めの暗号の定義のようで、寓意や言葉や絵の中に隠されたヒント・・・的なトリックもあった。どうしても馴染みの探偵が出てくると興味を惹かれるので、セイヤーズ「龍頭の秘密の学究的解明」やアリンガク「屑屋お払い」は楽しく読めた。ただ、全体的にはポーの「黄金虫」を初めて読んだ時のワクワク感はなく、どうしても「英語のカベ*1」があって楽しめなかった。暗号ミステリーそのものが古めかしく、限界のあるものだったのかもしれません。

 

*1:時にはラテン語、フランス語も