新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

原爆の父を狙うアラブ青年

 1976年発表の本書は、英国の国際サスペンス作家ジェラルド・シーモアの第二作。1975年のデビュー作「暗殺者のゲーム」が好評を博し、「ル・カレ以来の衝撃的なデビュー」と讃えられている。作者はもともとジャーナリスト、TVのレポーターからテロ・破壊活動の専門家となった。特にIRAの取材歴が長く、本書にもIRAの闘士マッコイが登場するが、その生態が生々しい。

 

 まだハイファがパレスチナ領だったころ、かの地から3人のアラブ青年が旅立った。南仏からドーバー海峡を目指した彼らは、モサドによって察知されて北フランスの地で警察に阻止されてしまう。2人の青年が死んだが、最後のひとりファーミは、予定通りロンドンへの潜入を果たす。

 

        

 

 彼らのミッションは、イスラエルの原子物理学者ソカレフ教授を暗殺すること。教授はイスラエル核武装の中心人物で、一般には知られていないが「原爆の父」のような存在。それがたまたま学会でロンドンにやってくるのだ。本国より警戒が緩いと見たパレスチナ勢力が、3人を送り出したのだ。ロンドンでの暗殺は、IRAのマッコイの協力を得て行われるはずだった。

 

 やってきたのが1人と知ったマッコイは暗殺は無理というが、ファーミは命と引き換えでもやると言う。やむなくマッコイは暗殺用の武器を用意するのだが、偶然麻薬捜査官に目を付けられて、捜査官を殺してしまった。教授にはモサドボディガードのほか、英国のSS(*1)が護衛に就いた。指名されたのは射撃の達人ジミー、酒浸りの中年男だが腕は確かだ。狂信的なファーミ、テロのベテランであるマッコイ、暗殺計画を読み切って待ち受けるジミー、3者の静かな闘いがヴィヴィッドだ。

 

 2人の教授を狙ったテロは失敗、マッコイも手傷を負った。教授は身を挺して手りゅう弾を防いだボディガードに守られて帰国の途につく。しかし、ファーミはそれでも教授の命を狙い続ける。

 

 狂信的なアラブの青年暗殺者とその対応を描いた佳作です。パレスチナの今を思うと、有るかもしれなかった過去が見えてきました。

 

*1:セキュリティ・サービス