1950年発表の本書は、技巧の名手ヘレン・マクロイの<ベイジル・ウィリング博士もの>。コネチカット州のブレアトン女子学院に勤めて5週間にもならない美術教師のフォスティーナ・クレイルは、突然校長から解雇を告げられる。しばらく前から、学院内でよそよそしく扱われるようになったのは気付いていたが、何も悪いことはしていない。校長は解雇理由も教えてくれず、他行への推薦も断った。教師としての実力は認めながら、である。
唯一の友人だったドイツ語教師ギゼラに励まされて、彼女はニューヨークに去った。ギゼラからこの話を聞いた恋人のウィリング博士は、ニューヨークで彼女に会い不思議な思いに囚われる。博士が校長に会って事情を問いただすと、しぶしぶ校長は理由を話した。

・学院内で、何度か彼女のドッペル(生霊)を目撃した人がいる
・それを怖がったメイドや学生が、もう7人学院を去った
・彼女がニューヨークへ去る日、校長自身がドッペルを見た
いずれも同じ服装をした彼女が、直前にそこにいたのに別の場所で目撃される事態である。校長は彼女のドッペルがそばを通り過ぎた時、匂いも音もしなかった。また彼女自身は、少し動作が緩慢だったともいう。
ウィリング博士がニューヨークへ戻るころ、学院では演劇コーチのアリスが首の骨を折って死んだ。第一発見者のギゼラは事故だと思ったが、学生の一人が、
「クレイル先生が突き飛ばした」
と証言する。そんなはずはない、ギゼラはたった今ニューヨークのホテルにいるフォスティーナと電話で話していたのだ。博士はフォスティーナの生まれの秘密を調べ、彼女を陥れる動機を持っている人物を探ろうとする。
彼女はニュージャージーの母親譲りの別荘に引き取り、車で彼女を訪ねたギゼラは雨の中、彼女を轢いたかと錯覚した。しかし別荘についてみると、彼女が心臓発作で死んでいた。雨の中を歩いた様子は全くない姿で・・・。
少し解決に甘さは残ったのですが、怪奇な現象を巧みな伏線と明快な推理で解き明かしていく作者の技巧。ウィリング博士の魅力も含め、作者の作品が復刻されてきたのは嬉しい限りです。