1948年発表の本書は、以前「小鬼の市」などを紹介したヘレン・マクロイのサスペンスミステリー。舞台はベイジル・ウィリング博士が探偵役を務める作品に使われる西インド諸島だが、ベイジルは登場しない。「トリッキーなサスペンス小説を得意とする技巧派」と評される作者の、その意味で代表的な作品といえる。
西インド諸島からニューヨークへの船便<サンタ・クリスティーナ号>に乗ったニーナは、島の電力を一手に引き受ける企業の社長ルパートから、分厚い封筒を託されていた。ルパートは自分で運ぶつもりだったのだが、落馬して入院してしまったから代理を頼まれたのだ。
ニーナはルパート邸を出る前に、邸の使用人を装った男に手紙の代筆を頼まれていた。文字が書けない男が、ニューヨークの妻に宛てて復縁を迫る内容だったが、後で考えると「遺書の代筆」をさせられた可能性がある。

署名は言われるままに「レスリー・ドーソン」と書いた。ところがその名前の女が別名で<クリスティーナ号>に乗っていて、なぜか毒蛇に噛まれて死んでしまった。さらにニーナが預かった封筒には、10万ドルもの現金が入っていたことが分かる。ニーナは封筒を隠す一方、事件の詳細を記録した文書をタイプし続ける。
落馬したルパートは病院で死に、レスリーの夫と思われる男も船上で殺された。誰かがルパートの10万ドルを狙って、殺人を繰り返しているようにも見える。捜査のため船に乗り込んだウリサール警部は、ニーナの記録を読んで殺人犯の正体を探ろうとするが・・・。
2度に渡るニーナの長い記録が、全体の3/4を占めている。小説として、かなり特殊な技巧である。怪しげな人物が闊歩する閉じられた船内で、ニーナに降りかかる事件を描くサスペンスと見せて、最後の30ページでどんでん返しがやってくる。トリックという意味では立派な本格ミステリー、区分に迷う名作でした。