WWⅡ後に締結された「南極条約」では、いかなる国も南極を領有したり軍事利用したりしてはならないとされている。しかし大異変が起きればそこに策謀が生じるのは当然のこと、1986年発表の本書はそんな大異変と米ソ両国の暗闘を描いている。作者のリチャード・モランはコピーライター出身の米国作家、何冊か邦訳されていると言うが、デビュー作の本書以外は見かけたことはない。
海底火山の噴火により、ロス棚氷が南極から分離して北上し始める。この氷はイベリア半島くらいの大きさを持っていて、北上して溶けてしまえば世界の海水面は6m上昇すると試算される。海に面した大都市は、ことごとく水没してしまうだろう。
米国の南極会議議長ランキン提督、娘の氷河学者メリッサらは危険をホワイトハウスに訴え続け、大統領もようやく危機感を持った。一方メリッサの夫マッコイ記者は、モスクワでソ連南極研究所長のアンナと恋仲になっていた。

アンナも危険をソ連書記長に訴えるのだが、国防相サービン将軍はこの機に乗じて世界制覇を企む。棚氷を数キロ四方の固まりに切り裂き、各々を<氷山空母>にして主要国の首都を狙える位置に置くというもの。港と海軍が壊滅した各国は、ソ連にひれ伏すとの算段だ。アンナは苦しんだ後祖国を裏切って、この情報を米国にもたらした。しかし先行して空挺部隊や原潜を南極に向かわせたソ連軍に対し、米国が打てる手はほとんどない。
それよりも、ロス棚氷の後ろにあった巨大氷河が流れ出す可能性も見えてきて、世界の覇権どころか人類最後の日が来るかもしれない。ランキン提督・メリッサ・マッコイ記者らは、キャンベル島の先住民族の長老の<千里眼>にヒントを得て、巨大な氷を止めようとするのだが・・・。
仕立てはSFながら、これも「Science Fact」に属するでしょう。さらに軍事スリラーの要素もあり、作者の綿密なリサーチとストーリーテリングの妙が冴えた作品でした。もっと邦訳が出ればいいと思うのですが・・・。