喜多喜久という人の本を読むのは、このシリーズが初めてである。本書はキューリーという名前のフランス人の祖父を持つクオーターの化学者、沖野准教授が主人公の学園連作ミステリーである。長身痩躯、うっすらと不精髭をはやしたオタク的な人物だが、学会では有名な学者で「Mr.キューリー」と呼ばれている。(なぜか「Dr.キューリー」ではない)

60ページほどの長めの短編が5~6編、一冊の短編集に収められている。書き下ろしですでに6冊以上刊行されているから、かなりの大河シリーズだ。四宮大学庶務課の新人課員七瀬真衣が、学内で起きる不思議な事件を沖野准教授に持ち込むのがパターンで、なんとなく東野圭吾の「ガリレオ」シリーズに似ている。
事件も心霊現象のようなものが発端になっているケースが多く、沖野准教授は化学の世界では知られた物質(本書でいうとテルミット、過酸化水素、ウランガラスなど)を持ち出して現象を解明する。若い人の多い大学(および周辺の高校から小学校まで)ゆえ、恋の悩みを化学で解決・・・などという離れ業もやってのける。もちろん科学者なので好んでやっているわけではなく、真衣のゴリ押しに負けてというわけ。
いわゆる「いやいや探偵」なのだが、事件を解決することが重なるとこれは便利と考えた猫柳庶務課長(真衣の上司だがきわめてイヤミに描かれている)は、沖野准教授の「コンプライアンス委員」を押し付けてくる始末。以前の作品に登場した人物(バカボンそっくりの青年医師、ゲイのイケメン若手俳優等)が、立場を変えて再登場するなど大河ドラマ的要素もあって、「ビブリオ古書堂の事件手帖」も思い出させる。
「ビブリオ古書堂」が連続ドラマ化されたように、このシリーズも十分映像化できると思うのだが現時点では音声ドラマになっているだけ。大学周辺が舞台なので、血なまぐさいシーンも少なく肩の凝らない軽い読み物としてはなかなか良質なものだと思います。