新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

第二次太平洋戦争(前編)

 ひと昔前だったらこのような小説はSF(Science Fiction)とよばれていただろう。最近Book-offを巡っていても、(もちろん新刊本書店でも)SF小説の凋落は著しく感じられる。理由は簡単で、SFのように思っていたことが、現実になってしまったことがある。また現実の方があまりに早く動いていて、一般の読者がついていけなくなってしまったこともあろう。

 

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 それを実感したのが、本書である。時代設定は2026年、発表が2015年だから約10年後の未来を描いている。冒頭の国際情勢は、現在とあまり変わらない。ただ、中国が肥大化していて、共産党支配から「董事会」という独裁体制に移行していることだけが異なっている。董事会の詳細は書かれていないが、より軍事優先・覇権拡大の傾向が強い政治体制である。世界はエネルギー危機を迎えていて、温暖化で氷が溶けたグリーンランドで油田が見つかったと大喜びしている。
 
 そんな中、日本海溝天然ガス田が見つかり、これを獲得しようとした中国はロシアと同盟して西太平洋の米軍に奇襲をかける。ロシアのMig-35(F-35の図面をサイバー攻撃で盗んで作ったもの)編隊が嘉手納基地を壊滅させ、民間船に見せかけた輸送船から中国軍の戦車がハワイ諸島に上陸する。米軍の監視衛星も中国軍の攻撃で無力化され、米軍は西太平洋の全てを失ってしまう。
 
 反撃の切り札である空母機動部隊や原子力潜水艦もどういうわけか撃破され、主力戦闘機F-35もまともに飛べない。これは、新鋭艦や航空機に中国産のLSIが使用されていたのだが、これらが特定の指令を受けて機能を妨害したからだ。
 
 実はマルウェアというのは、ネット経由で入ってくるだけではない。レノボのPCやファーウェーのルーターに、製造時からマルウェアが仕込まれていたこともある。デュアルユースという言葉が示すように、軍用部品が民生品にも使われたりその逆というのも、普通に行われている。民生品の方が数が出るので軍用品のコストを下げることにも寄与するから、共用を禁ずることは得策ではないからだ。
 
<続く>