新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

多死社会、故人の人権を守るため

 2022年発表の本書は、ノンフィクション作家平野久美子氏の「日本の死因究明制度」レポート。筆者は両親らの死にあたり「異状死」としてその対応に追われた経験から、日本で普通に死んだ人の死因の究明がどうなっているかを調査した。

 

 病院以外で死んだり持病以外の死因が疑われる場合は、異状死となり警察が介入してくる。警察になれていない遺族は「形式的ですから」と言われても、緊張して尋問を受けることになる。保険金の額や遺産に関しても聞かれるらしい。警察が何らかの異常を見つけると本当に異常死となり、遺体は検視に掛けられることになる。

 

 2万体を解剖した伝説の監察医上野正彦教授の書はいくつも紹介したが、異常が疑われる遺体でも監察医不足やそもそも監察医を置いていない自治体がほとんどで、犯罪が見落とされるリスクが綴られていた(*1)。

 

        

 

 本書でも上野教授の「故人の人権を守るための死因究明」との発言は引用されている。一方「希望通り自宅で死ねたのに警察案件になってしまう」遺族の心情にも、配慮が必要だとある。加えて自治体で制度が違うため関連費用にも大きな差があり、納得できないケースもあるという。

 

  異状死の解剖率はスウェーデンでは90%近いのだが、日本では2020年の例で、17万遺体中18,000体程度。自治体によって差が大きく、兵庫県は34%なのに広島県は2%である。監察医制度はもともと公衆衛生向上の目的で設置されたが、人手不足やコスト面から限定地域だけしか残っていない。ドイツでは、法医学者が検視して異常があれば衛生医が診るダブルチェック体制がある。日本での改善提案としては、

 

・かかりつけ医の判断で異状とそうでないものを分ける

・後々の証拠として解剖ではなく、AI(Autopsy Imaging:死後画像診断)を行う

 

 ことが挙げられていた。多死社会に向かい、どう故人の人権を守るか考えさせられる書でした。

 

*1:監察医が診た社会の病理 - 新城彰の本棚