本書の発表は1987年、東西冷戦も末期である。作者のアントニー・レジュネは、海軍にいたこともあるジャーナリスト。政治関係の記者だが、<デイリー・メイル>などで探偵小説の書評を担当していたこともある。裏表紙に「東西秘密組織の死闘」とあったので買ってきたのだが、ちょっと派手すぎる宣伝文句だったというのが読後感。英国に本拠を置く秘密組織<フィッシャーズ>は、もともとナチスドイツからユダヤ人を逃がすために結成されたもの。冷戦期に入っても東側諸国から西側への政治亡命などを助けるミッションを、あからさまな政府援助を受けずに続けている。欧州・中東・アフリカなどに現地協力者はいるものの、特別に強い諜報力・軍事力があるわけではない。

トラベルライターをしているリチャードは、<フィッシャーズ>のメンバーのひとり。世界を飛び回る仕事ゆえ、秘密任務には適切な人材だが軍事訓練を受けているわけではない。SAS出身の友人ジェレミーらに助けてもらわないと、銃の整備もできない。そんなリチャードが社交界のパーティで拾った女イレーネは、リチャードが眠っている間にリチャードの荷物をあさるなど不審な行動をする。友人のダイアナとともにイレーネの正体を探るうち、2人は正体不明の男たちに襲撃される。KGBの委託先組織<シャーマン>が、<フィッシャーズ>を壊滅させようと動き始めたのだ。
舞台はナミビアの捉えられている南アフリカの兵士救出や、ロンドンでの両組織の化かしあい、東西ドイツ国境の町にとらわれているイレーネの子供ステファンの救出など、めまぐるしく移ろいながら展開していく。ただ両組織の諜報戦も底が浅いし、戦闘シーンも平板、なにより秘密組織の構成員たちが、リチャードを筆頭に無用心すぎるのが気になる。それでも英国の「貴族文化」は(本筋とは関係ないのだが)端々にみられる。ジャーナリストとして社交界に長く触れた作者ゆえの特徴だろう。
残念ながら宣伝文句に匹敵する「快作」ではありませんでした。英国のスパイスリラーが袋小路に入っていた時代の作品ということでしょうか。