新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2019-01-01から1年間の記事一覧

京都・華道・キャサリン嬢

山村美沙のレギュラー探偵、キャサリン・ターナーのデビュー作が本書(1975年発表)。20歳のコロンビア大学三年生、金髪美女で米国副大統領の娘というVIPだ。日本のミステリーで外国人を探偵役に据えたケースは多くない。作風の広い都築道夫のキリオン・スレ…

牧師親子が探る16年前の事件

「背筋が凍る」サスペンスが得意の女流作家、ルース・レンデル。本書は彼女の初期の作品(1967年発表)で、長編第四作。デビュー作「薔薇の殺意」に続いて、田舎町の警官ウェクスフォード首席警部が登場する。彼は署長からアーチェリー牧師という人物から届…

カリブ海の密約

ジャック・ヒギンズの諸作には、レギュラーと思われる4人ほどの人物がいる。イギリスの諜報機関の長、チャールズ・ファーガスン准将がその一人だし、彼が必死に追い求めていたテロリストがIRAの闘士だったショーン・ディロン。彼の登場作品「嵐の目」で…

エスピオナージの詩人

本書は、英国秘密情報局(SIS)員、バーナード・サムスンものの第二作(1985年発表)。もうすぐそこに「ベルリンの壁」が崩れるのだが、それは後世の人の後知恵。確かにソ連をはじめとする東側諸国は経済的に行き詰まっているのだが、それでも欧州一帯では西…

もうじき17シーズン目に

海外へ出かけるフライトで一番楽しみにしているのは食事だが、その次に重要なのは機内エンタメ。このところ僕のイチオシは、CBSのTVドラマ「NCIS~ネイビー犯罪捜査班」である。見始めて4~5年になる。基本はミステリーで、エスピオナージ仕立ての時も、軍…

ロワールとプロヴァンスへの誘い

家内は大学で第二外国語として「フランス語」を選んだそうだ。(僕はドイツ語) そのころを思い出しながら、NHKの「旅するフランス語」を視ている。舞台は9月までの放送ではリヨン、10月からはトゥールーズとのこと。いずれも美食で知られる街である。 僕ら…

憲法改正議論の前の予習

和久峻三という人は、1972年「仮面法廷」で江戸川乱歩賞をとったミステリー作家である。TVドラマ「赤かぶ検事シリーズ」などの原作者である。自身も弁護士であり、法廷ものを得意とした。赤かぶ検事は飛騨高山などで活躍するが、作者が一時期中日新聞に務…

ボストンのビジネスウィメン

前作「ポットショットの銃弾」で派手な銃撃戦を見せたスペンサー、今回はホームグラウンドに戻って富豪の銀行家殺人事件に挑む。銀行オーナーのネイザン・スミスは58歳、ベッドルームで全裸の射殺体で発見される。凶器は珍しい.40口径の拳銃。寡聞にしてこん…

技術のいたちごっこ

三匹の小魚を描いたUボート「U333」で何度も死地を潜り抜けて、ペーター・クレーマー艦長は終戦まで生き延びた。有名なUボート艦長の大半が戦死しているわけで、捕虜になれば幸運な職業とも言える。本書は、そのような地獄を行き抜いたUボート艦長の手記…

ヴェルサイユに押し掛ける群衆

昨年12月、偶然だがウィーンとパリへの出張があった。個人的にも何度も訪れたこの2つの街、少し趣は違うがヨーロッパの古都としての重みを感じさせる。そんな感傷もあって手に取ったのが本書。藤本ひとみという人の本を読むのは初めて。西洋史に造詣の深い…

ベテランSIS諜報員もの三部作

レン・デイトンは米国生まれだが、英米で作家活動を続けた。1960年代に発表した「イプクレス・ファイル」、「ベルリンの葬送」、「十億ドルの頭脳」は、リアルなスパイストーリーを叙情的な文体・描写で綴ったとして高い評価を得た。 しかしこれらの諸作も、…

ビジネス上手な私立探偵

本書の発表は1935年、アメリカで本格ミステリーが開花したころの発表である。作者のレックス・スタウトは、これが二作目。「毒蛇」でデビューしたのは、蘭と美食を愛し恐らくは120kgを超える巨体をもてあます私立探偵ネロ・ウルフとその助手アーチー・グッド…

ルブ・アル・ハーリー砂漠

日本ではあまり報道されていないが、シリアと並んでイエメンの内戦も悲惨な状況にあるらしい。南にアラビア海を臨む国イエメンでは、事実上サウジアラビアとイランの宗教対立からくる代理戦争が続いているのだ。言うまでもなく灼熱の砂漠がかなりの面積を占…

軍隊と自衛隊の間

政策通と言われる自民党石破議員が、2004年に2年以上務めた防衛庁長官(現在の職名は防衛大臣)を退いてから著わしたのが本書である。「軍事オタク」とのうわさもある同議員だが、長官室に軍艦や戦車のプラモデルを飾っていたのは事実のようだ。それでも本…

イギリス貴族の「笑劇」

以前デビュー作「誰の死体?」を紹介したドロシー・L・セイヤーズの第二長編が本書である。デビュー作については、カッコいい貴族探偵ピーター・ウィムジー卿を主人公にした本格ミステリーとして同時期のライバルであるアガサ・クリスティより上手いかもし…

双子の天才戦闘機乗り

「鷲は舞い降りた」などの戦記物で知られるジャック・ヒギンズが、しばらく筆を措いた後1998年に発表したのが本書。第二次欧州大戦を舞台に、数奇な運命に翻弄される双子の天才パイロットを描いた傑作である。主人公のハリーはアメリカ人だが、欧州が戦火に…

年金の物価スライド制

以前憲法改正議論が高まってきたので、ミステリー作家和久俊三の「憲法おもしろ事典」を紹介した。その後僕が思ったほど、憲法論議は進んでいない。それはともかく、和久先生(弁護士でもある)のこの本も面白かった。埋蔵金発掘の権利関係、酒の上の口約束…

「活人剣」新陰流の創始者

「鬼平犯科帳」「仕掛人藤枝梅安」「剣客商売」「真田太平記」など膨大な歴史小説で知られる池波正太郎の初期の作品で、これまで文庫化されていなかったものを双葉文庫が集めて2007年に編纂したのが本書。著者の死後17年たってのことで、池波人気が衰えてい…

ISIS+大量破壊兵器の目標は?

作者のジョエル・C・ローゼンバーグは、「ニューヨーク・タイムズ」のベストセラー作家だと紹介文にある。著作の出版総計は300万部をこえているそうだが、邦訳は本書が最初とのこと。2015年発表の本書は、4年後の今でも現在進行形のシリア内戦とその周辺国…

シリアル・キラーの遺留物

「百番目の男」でデビューした、ジャック・カーリイの第二作が本書。主人公は、同じアラバマ州モビール市の特別捜査班カーソン・ライダー刑事。前作も異様なサイコ・サスペンスだったが、本書はそれを上回る奇怪さである。プロローグとして、30年前連続殺人…

ドイツ人とナチス

イタリアの事情は知らないが、第二次世界大戦の敗戦国ドイツと日本の戦後には、ある程度共通したところがある。それは「戦争責任」を国全体で背負うというより、特定の勢力/集団に負わせたことだ。日本ではそれは軍部や戦犯であり、ドイツではナチス党であ…

陸上自衛隊の海上戦力

憲法9条の縛りだろうか、長く海外での活動を禁じられてきた「Japan Self Defense Force」、他国から見れば明らかに「Japanese Army/Navy/Air Force」なのだが。海外を文字通り「海の外」と解釈したのか、海上機動力の整備や軍用機の航続距離延伸には消極的…

二度目のローマに行く前に

今年6月に行ったローマ旅行が大変良かったので、只今二度目のローマ旅行を企画中である。カタール航空のビジネスクラスも良かったけれど、6泊テルミニ駅前のホテルに泊まって1週間有効の市内交通乗車券で方々歩き回った。 https://nicky-akira.hatenablog…

アガサの二人の分身

ミステリーの女王アガサ・クリスティも、デビュー早々この評価を受けたわけではない。最初の夫、アーチボルト・クリスティ氏との離婚騒動までは、後年名作と伝えられる「アクロイド殺害事件」などの著作はありながら、家庭の不安定もあって幸福な人生とは言…

食欲の出るミステリー

どうしても犯罪、その中でも凶悪な殺人などを扱うことの多いミステリーというジャンルでは、それを読んで食欲が出る・・・という作品は少ない。もちろん豪華なお料理が出てくるシーンもあるのだが、バラバラ死体や腐乱死体など出てくるわけだから、舌なめずりす…

密室の巨匠、デビュー

エラリー・クイーンに遅れること1年、ジョン・ディクスン・カーは本書でデビューした。後年レギュラー探偵となる、ギデオン・フェル博士やヘンリ・メリヴェール卿はまだ登場せず、パリの予審判事アンリ・バンコランが探偵役を務めている。スタイルとしては…

巡洋艦の役割

第二次大戦以前戦艦・巡洋戦艦は主力艦と呼ばれ、最後は主力艦同士が撃ち合って国の争いに決着を付けるものと位置付けられていた。いわば、戦略兵器である。駆逐艦や水雷艇、潜水艦はと言えば、主力艦を守ることを含めた戦術兵器である。それでは、巡洋艦っ…

東大法学部の4人

高木彬光は後年の「検事霧島三郎」シリーズが有名だが、デビュー作「刺青殺人事件」(1948年)は怪奇なテイストの本格密室ものだった。その後東大医学部の神津恭介を探偵役にしたシリーズで本格ミステリーを書き続けていたが、社会派ミステリーへの転機とな…

スペンサーの「荒野の七人」

ある日スペンサーのところに西部から来た若妻メアリが訪ねてきて、夫を殺した奴を捕まえてくれと訴えかける。彼女の住む町ポットショットは荒れ地に囲まれた山間の町で、巣くったならず者集団<ザ・デル>に脅かされている。彼女の夫スティーブは海兵隊上が…

ツェッペリン飛行船

南ドイツ、バーデン=ヴィッツベルグ州コンスタンツの船着き場に、背中に羽根を生やした男のモニュメントが建っている。イカロスのようにも見えるが、これがフェルディナント・フォン・ツェッペリン伯爵の像である。伯爵は飛行船の開発・運用に生涯や財産を…