新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

3人のドイツ航空技術者

第一次世界大戦で敗戦国となり、多くの「枷」を掛けられたドイツだが、1930年代に奇跡とも思える復活を遂げる。政治的統一・産業振興・軍備の拡張のいずれもが、上手くいっているように見えた。その中の一つに、航空機産業がある。日本も含めて各国が航空機…

温故知新のサラリーマン論

「梟の城」で直木賞を獲り「竜馬がゆく」などの大作で知られる作家司馬遼太郎は、戦後いくつかの新聞社で記者をしていた。30歳を過ぎたら作家になろうと考え、文章修行をしたのがこの時代。新聞記者はプロフェッショナルだが、サラリーマンでもある。若い大…

5人の亀取二郎

本書は「本格の鬼」鮎川哲也の、鬼貫警部ものの長編。作者の長編は、以前発表したものに手を入れて再発表するものがいくつかあるが、これもその1編。1979年に「王」と題して「野生時代」に発表したものに加筆し、「王を探せ」と改題して1987年にカドカワノ…

ファンのためのギブスの物語

このDVDは、ご存じ「ネイビー犯罪捜査班:NCIS」のシーズン9。この中の14作目「運命の分かれ道」で通算200話を達成している。記念すべき200話は「ファンのためのギブスの物語」と位置付けられ、シーズン1からずっと主役を続けてきたギブス捜査官(マーク・…

青年医師ヴィンスの淡い恋

1989年発表の本書は、アランナ・ナイトの「ファロ警部補もの」の第三作。3日続けて紹介することになったのは、1980年代のエジンバラを舞台にした特色あるミステリーである上に、第二作「エジンバラの古い棺」の事件では主人公ファロ一家に歴史的な大事件が…

メアリー女王とダーンリー卿のカメオ

1989年発表の本書は、昨日「修道院の第二の殺人」を紹介した、アランナ・ナイトの「ファロ警部補もの」の第二作。実は3作買ってあって、前作が面白かったものだから連続して読むことにした。「軽快な犯人探し」という紹介文にも魅かれたし、19世紀のスコッ…

エジンバラ警察1890

1988年発表の本書は、ノンフィクションからゴシック・ロマンまで、幅広い作風で知られるアランナ・ナイトの歴史ミステリー。舞台はヴィクトリア朝時代のエジンバラ、スコットランドの首都でもあり独自の文化が栄えた街だ。作者の60作ほどの作品中、17作に登…

政治とは何か?リーダーはどうか?

本書は民主党政権末期の2012年に発表された、政治記者橋本五郎氏の政治リーダー論。第一次安倍内閣以降、政権は1年単位で交代していた。筆者はこれらの総理大臣を、政治リーダーとは見ていないようだ。筆者がまだ駆け出しだったころからの名だたる総理大臣…

主張の見えにくいレポート

2021年発表の本書は、朝日新聞の東京本社経済部長の伊藤裕香子氏の税制論。菅内閣が「COVID-19」対策の説明不備などあって、支持率を下げているころの出版である。菅総理の言葉にある「自助・共助・公助」の順番が違うのではないかと、野党が責め立てている…

名犬<フレンチ・フライ>

英国では純文学などで名を挙げた作家が、突然ミステリーを書くという「伝統」がある。A・A・ミルンやイーデン・フィルポッツなどがいい例だ。20世紀後半になってもその流れはあるようで、本書の作者マイケル・ボンドは「くまのパディントン」で知られる児童文…

侵略を主導したのは民間

朝鮮半島の歴史については、以前呉善花著「韓国併合への道」で李氏朝鮮末期の腐敗・混乱ぶりを、また池東旭著「韓国の族閥・軍閥・財閥」で半島が常に周辺から収奪される存在であったことを紹介した。今も「日帝支配への恨」の意識が残る韓国だが、ではその…

二つの祖国を持った人からのエール

2020年発表の本書は、台湾出身の「日本人」金美齢氏からの日本人へのエール。強硬な台湾独立派の論客で、日本人よりも(古来の)日本人らしい人である。1934年台北生まれ、1956年に来日し早稲田大学を修了、日本で英語教育に携わった。二重国籍を認めない日…

女の園の異邦人

1959年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ポワロもの」。イギリスの名門女子校で起きる連続殺人事件に、ポワロが巻き込まれる。味付けになっているのが、中東某国のクーデター。実際に中東の国で政変が起き、アリーという若い王子が飛行機で脱出しよ…

ハードボイルドの記念碑

ハードボイルド小説の祖と言われるダシール・ハメットは、長編を5冊しか遺していない。そのうちの2冊「血の収穫」と「デイン家の呪い」はすでに紹介した。いずれもコンチネンタル探偵社のオプ(探偵)である「俺」が主人公の1人称小説だった。ハメットの…

国土に働きかけてこその恵み

本書は、国交省の元技監大石久和氏の「国土論」。東日本大震災の翌年、2012年の発表である。国土庁から道路局長とインフラ行政の裏面を知り尽くした技術者である筆者とは、震災前に知己を得てインフラのデジタリゼーションについて議論させていただいた。震…

失敗して当たり前

2015年発表の本書は、警察官僚で危機管理分野を担当する警察大学校の樋口晴彦教授の危機管理論。多くの危機管理の実例を示した、実践的な書だ。ただ後半は太平洋戦争や幕末の戦争指導の例が多く、あまり新味はない。それよりも前半、福島原発事故など昨今の…

英仏ヒーローの知恵比べ

20世紀初頭、フランスミステリー界をリードしたのがモーリス・ルブランの「アルセーヌ・ルパンもの」。ガストン・ルルー「黄色い部屋の謎」などフランスの古典ミステリーも質的には評価が高いが、英米に比べると数では劣る。それをカバーしたのが「ルパンも…

太平洋架空戦記1991

本書は、以前「Redsun & Blackcrossもの」の「フリードリヒ大王最後の勝利」を紹介した佐藤大輔の短編集。かつて(1991年)天山出版から出されていた作品群に、新作を加えて文庫化したもの。太平洋戦争のIFを、思い切り詰め込んでいる。 今にして思えば、太…

「コード」による法の執行

2019年発表の本書は、学習院大学の法学者小塚荘一郎教授のデータ関連の法学解説。仮想通貨や自動運転などについての論文はあるが、デジタル化は法制度に極めて広い範囲で影響を及ぼし、それを概観する書としてこれをまとめるのは大変だったという。タイトル…

是非ではなく事実として

昨日「医の希望」を紹介して、人が健康で長く暮らせる(働ける)社会になったことを再確認した。僕も今月で67歳。60歳そこそこで亡くなった多くの先達のことを思うと、幸福な時代を生きてきたと感じる。 本書は、平成という30年間の日本や世界の変化をデータ…

革新技術と医療の進化

2019年発表の本書は、中部医学会の重鎮齋藤英彦氏が編者となり、日本の医療技術・システムの最前線を8人の著者と共に紹介したもの。編者は名古屋大学医学部教授が長く、著者の何人かも名古屋大学と関係ある人達だ。 名古屋大学は最初に医学部・工学部が設立…

スパイするという事は待つ事

本書は、英国推理作家協会賞(スティール・ダガー賞)を受賞した2012年の作品。作者のチャールズ・カミングは、現代英国のスパイ小説の旗手とも言われている。英国秘密情報部(SIS)に誘われたこともあるのだが、誘いは断ってスパイ小説を書き始めたという。…

<クーリエ・ジャポン誌>上の成長産業

昨日<クーリエ・ジャポン誌>に掲載された16人の識者のインタビュー記事をまとめた「新しい未来」を紹介した。本書はこの書と同じ2021年に発表された、世界企業14社のCEOにインタビューした記事の集大成。 いわゆるGAFAMやスペースXの記事はよくあるが、Ne…

<クーリエ・ジャポン誌>上の叡智

2021年発表の本書は「COVID-19」禍を受けての新しい世界展望について、世界16名の叡智が語ったもの。<クーリエ・ジャポン誌>は僕も時々読んでいる、Web上の知的メディア。本書は2020年に掲載した記事をベースに、補筆するなどして主張を1冊にまとめている…

キリスト教世界の繋がり

本書は、これまで4冊を紹介している21世紀研究会の「世界地図シリーズ」の1冊。今回は「人の名前」である。中国や朝鮮半島、その他地域の名前にまつわるエピソードも興味を引くが、何と言っても本書全体の2/3を占めているキリスト教文化圏の名前の由来が面…

日本が抱える「内憂外患」

2021年発表の本書は、内閣官房参与で外交評論家の宮家邦彦氏が<Voice誌>の巻頭言を2018~2020年にかけて執筆した内容をまとめたもの。先日筆者が<朝までナマTV>で「国会で秘密会をやってくれ」との発言に注目して、本書を読んでみた。 国会の秘密会と議…

「生きづらさ」を覚える人々

2019年末、まだ「COVID-19」禍が始まる直前に発表された本書は、朝日新聞記者牧内昇平氏の政治分析。この年9月の参議院議員選挙で2議席獲得した<れいわ新選組>と、山本太郎代表に関するレポートである。 筆者は本書で、非正規から抜け出せない人、貧困で…

スバールバル諸島、1983

本書はまだ冷戦期の1983年に、英国の軍事スリラー作家リチャード・コックスが発表したもの。作者は予備役のパラシュート部隊の少佐、パイロット資格もあり、サンデータイムズやデーリーテレグラフの記者をしていたらしい。軍事紛争エリアを実際に取材した経…