新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

歴史・軍事史

カウンターテロリズムの研究

2022年発表の本書は、日大危機管理学部福田充教授のカウンターテロリズム研究。オウムの地下鉄サリン事件を契機に、危機管理の研究を始めた筆者が、安倍元総理暗殺事件を契機に、現代テロの特徴と対処法を示した内容になっている。 蘇我入鹿暗殺、本能寺の変…

100年前の日本を見る思い

2022年発表の本書は、民主化ミャンマーに派遣され初歩から融資制度を作った銀行マン泉賢一氏の「ミャンマー金融戦記」。筆者はSMBCから2013年に現地に派遣されたが、その時はまだティン・セイン軍政下。外国銀行が営業できる状況になかったが、改革開放の機…

30年間放置されてきたカルト集団

2023年発表の本書は、安倍元首相暗殺事件以後再び追及されることになった旧統一教会についてのレポート。対談しているのは、叔母が元信者で多額の献金をし、脱会させるのに苦労した経験を持つ漫画家小林よしのり氏と、30年前から同教会の闇を追い続けてきた…

ユビキタス化した戦争への対応

2021年発表の本書は、ウクライナ紛争で一躍「時の人」となったロシア研究者小泉悠氏の「ロシアの戦略論」。大兵力を投入しながらウクライナでの電撃戦は果たせず、初期投入兵力の9割を失ったともいわれるロシア軍。装備の古さ、士気の低さ、指揮の拙劣さ、…

台湾海峡をめぐる仮説

2022年発表の本書は、ジャーナリスト清水克彦氏の手になる台湾有事の背景と展望。筆者は軍事が専門ではないが、文化放送のMCを務めて人脈が広がり、多くのキーマンにインタビューして本書をまとめている。 そもそも今の中国は、米国が育てた。ソ連に対応した…

何時なら対英米戦を回避できたか

昨日、軍事ライター兵頭二十八氏の、技術・戦術面から見た日米開戦の状況分析「真珠湾の真実」をご紹介した。後年伝えられていたより、さらに日米間の戦力格差は大きかったことが分かった。それでは、なぜ無謀というより絶望の開戦に至ったか、高名な歴史探…

冷徹な技術者の結論

2001年発表の本書は、以前「こんなに弱い中国人民解放軍」「日本転覆テロの怖すぎる手口」を紹介した軍事ライター兵頭二十八氏の初期作品。戦争をリードするのは古来技術だが、その比重が近代には途方もなく大きくなった。国力が10~20倍ある米国に挑んだ帝…

最初の情報戦「大義名分」

2018年発表の本書は、東京大学史料編纂所の本郷和人教授の手になる「リアルな日本の軍事史」。筆者の専攻は、日本中世政治史と古文書学。日本史関連の著書があり、NHK大河ドラマ「平清盛」の時代考証も務めた。 全体的には、すでに知っている「リアル」が多…

壊れてしまった世界秩序

2022年発表の本書は、ロシアの侵攻後半年の時点での「変わってしまった世界秩序」について5人の有識者とジャーナリスト峯村健司氏が対談した記事を書籍化したもの。注目されないロシア研究を黙々と続け、一躍時の人となった小泉悠専任講師は100ページも思い…

満清支配をくつがえせ!(後編)

闘いの訓練も受けておらず老若男女が混じっている叛乱軍ゆえ、時折痛い目にも遭うのだが、東王楊秀清の指揮もあって北を目指して進撃する。行く先々で清朝に不満を持つ民衆が参加してくるので、軍勢は増えていく。 ただ中心たる洪秀全は、ほとんど表に出てこ…

満清支配をくつがえせ!(前編)

今年陳舜臣の「琉球の風」を読んで、知らなかった歴史に感動した。そこでもう一歩踏み込んで、中国の近世を知ろうと思い手に取ったのが本書(全4巻)。1969年から3年間にわたって<小説現代>に連載されたものだ。アヘン戦争後の中国、清朝は揺らいでいた…

日本に自律と核武装を勧める

本書はフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏が、ウクライナ紛争後の世界についてインタビューに応えたもの。侵攻後1ヵ月前後に2度受けたインタビューが基になっていて、他の2つの記事はこれらを補完する目的で、2017年と21年のものを再掲してい…

イスラム教シーア派の主導国

2021年発表の本書は、共同通信社で2年間テヘラン支局長を務めた新冨哲男氏のイランレポート。イランはシーア派イスラム教徒の主導国で、イスラエルを攻撃している<ハマス><ヒズボラ><フーシ派>の後ろ盾である。 紀元前550年、この地にアケメネス朝ペ…

「洪門」という根強い勢力

昨日の「中国vs.世界」に引き続き、安田峰俊氏の中国論を紹介したい。それも特別にドロドロしたテーマである秘密結社。広大な土地を治めるには、地方分権型では上手くいかない。古来の王朝も、今の共産党政権も、 ・中央に絶対的な権力を集中 ・地方には中央…

交渉なくして和平なし・・・ならば

2023年発表の本書は、アフガニスタンなどの戦争終結に関する試みを多く経験した上智大学(グローバル教育センター)東大作教授の手になる「ウクライナ戦争終結への道」。大国が小国を相手に勝てず、結局は退いた例(ベトナム・アフガニスタン等)は多いが、…

明白に罪になってしまう事も

本書はこれまで5冊紹介した、21世紀研究所の「世界地図シリーズ」の1冊。昨年紹介した「常識の世界地図」は、海外旅行に行くとき(あるいは外国人を迎えたとき)に注意すべきことが書いてあった。日本人が知らない、外国では明白に罪になってしまうことも…

第四帝国への道?

2021年発表の本書は、以前「ドイツ料理万歳」を紹介したドイツ在住の作家川口マーン恵美さんの現代ドイツ政治史。日独の文化の違いを著した書が多い筆者だが、本書はシリアスな政治考。2005年に統一ドイツの首相に就任して、長期政権を築いたアンゲラ・メル…

戦場を往来した郵便コレクション

今日10/9は「世界郵便の日」である。本書(1991年発表)は歴史・軍事作家柘植久慶が、その「郵便愛」を存分に綴ったもの。取材で世界を巡る作者は、ロンドンの切手商で義和団事変に出征したドイツ兵が故郷に送った手紙を見つけた。それ以降多くの軍事郵便を…

テロが手段から目的に替わり

1983年発表の本書は、以前「過去からの狙撃者」などのスパイスリラーを紹介したマイケル・バー=ゾウハーのドキュメンタリー。1972年9月、ミュンヘン五輪の最中に起きたパレスチナゲリラの人質事件が帯で強調されているが、実質的に20世紀のパレスチナ紛争…

ハイブリッド戦争の最前線

昨日NTTHDの横浜CISOの近著「サイバーセキュリティ戦記」を紹介したのだが、本書も最新刊、横浜氏のチームのストラテジスト松原実穂子氏のウクライナ紛争レポートである。著者は、防衛庁から複数の企業を経験して現職にある。昨年度の「正論大賞:新風賞」の…

DATA Science in WWⅡ

1994年発表の本書は、伝説のゲームデザイナー、ジェームズ・F・ダニガンが、アルバート・A・ノーフィーと一緒に書いた「WWⅡ雑記帳」。戦史として遺されなかった細かなことや、都合の悪いこと、統計が示す厳然たる事実などを紹介している。ゲームデザインのために…

ゾルゲらを捕まえた特務機関

プーチン大統領が子供の頃からKGB入りを希望したのは、第二次世界大戦におけるゾルゲらの活躍を知ったからだという。「1人のスパイが数個師団に値する」これが少年プーチンの心に火をつけた言葉だった。 2003年発表の本書は、日本には幻の特務機関があって…

第二帝国崩壊の真実

第二次欧州大戦の経緯は、多くの書籍・ゲームで知っているのだが、第一次の方はというと、日本軍が大きな役割をしなかったせいか知識が薄い。 枢軸国:ドイツ、オーストリア=ハンガリー、トルコ他 連合国:フランス、ロシア、イギリス、イタリア、アメリカ…

シャリーアのみによる統治

2022年発表の本書は、米軍撤退後のアフガニスタンにおけるタリバン政権の状況と未来を考察したもの。同志社大学内藤正典教授(国際関係学)が、国連事務総長特別代行としてアフガニスタン支援ミッションを指揮してきた山本忠通氏にインタビューしてまとめて…

なぜイスラムは声を挙げない?

2021年発表の本書は、中国の新疆ウイグルにおけるウイグル族弾圧に関する考察。社会学者橋爪大三郎教授と、イスラム学者中田考氏の対談で構成されている。ウイグル族弾圧について欧米の報道はいくつもあり、強制連行・抑圧・暴力・文化的破壊・漢民族化・レ…

事実か小説か、17歳リックの冒険

朝鮮戦争末期の1952年春、米国海兵隊の6名が旧満州吉林近くの人造湖に潜入した。目標は中国共産党が稼働させている原子力研究所。国民党軍や地元ゲリラの助けを借りて、これを破壊せよというミッションだった。若干17歳でこの作戦に参加したローレンス・ガ…

粛清と虐殺に明け暮れた独裁者

2022年発表の本書は、国際政治学者(元都知事というべきか?)舛添要一氏の独裁者シリーズ。前2冊はムッソリーニとヒトラーを取り上げたとあるが、トリのスターリンは2人を合わせた以上の「怪物」だったようだ。 グルジア(現ジョージア)生まれのヨシフ・…

NATO加盟の議論の前の予習

今日から始まるNATOの会議に、韓国の尹大統領とともに岸田総理が出席するという。もし日韓両国が加盟などということになったら、もはや「北大西洋」ではなく「北大洋」条約になって、NATO→NOTOになるかもしれない。 2021年発表の本書は、以前「プーチン幻想…

進化心理学から見たフェイク史

2022年発表の本書は、認知科学を専門とする石川幹人博士のフェイク史。フェイクニュースが社会全体の脅威になりつつある今、科学的な対応が可能かを知りたくて本書を読んでみた。 「協力するサル」である人類は、食糧の少ない草原で生きるため、50~100人の…

21世紀最大の市民運動

1997年の今日(7/1)、香港は中華人民共和国に返還された。中国の一部とはなるのだが、その後最低50年はこれまでの世界に開かれた都市である「一国二制度」が続くはずだった。しかし結果は、その半分も期間も経たないうちに、事実上併合されてしまった。 202…