新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

歴史・軍事史

ハイブリッド戦争の最前線

昨日NTTHDの横浜CISOの近著「サイバーセキュリティ戦記」を紹介したのだが、本書も最新刊、横浜氏のチームのストラテジスト松原実穂子氏のウクライナ紛争レポートである。著者は、防衛庁から複数の企業を経験して現職にある。昨年度の「正論大賞:新風賞」の…

DATA Science in WWⅡ

1994年発表の本書は、伝説のゲームデザイナー、ジェームズ・F・ダニガンが、アルバート・A・ノーフィーと一緒に書いた「WWⅡ雑記帳」。戦史として遺されなかった細かなことや、都合の悪いこと、統計が示す厳然たる事実などを紹介している。ゲームデザインのために…

ゾルゲらを捕まえた特務機関

プーチン大統領が子供の頃からKGB入りを希望したのは、第二次世界大戦におけるゾルゲらの活躍を知ったからだという。「1人のスパイが数個師団に値する」これが少年プーチンの心に火をつけた言葉だった。 2003年発表の本書は、日本には幻の特務機関があって…

第二帝国崩壊の真実

第二次欧州大戦の経緯は、多くの書籍・ゲームで知っているのだが、第一次の方はというと、日本軍が大きな役割をしなかったせいか知識が薄い。 枢軸国:ドイツ、オーストリア=ハンガリー、トルコ他 連合国:フランス、ロシア、イギリス、イタリア、アメリカ…

シャリーアのみによる統治

2022年発表の本書は、米軍撤退後のアフガニスタンにおけるタリバン政権の状況と未来を考察したもの。同志社大学内藤正典教授(国際関係学)が、国連事務総長特別代行としてアフガニスタン支援ミッションを指揮してきた山本忠通氏にインタビューしてまとめて…

なぜイスラムは声を挙げない?

2021年発表の本書は、中国の新疆ウイグルにおけるウイグル族弾圧に関する考察。社会学者橋爪大三郎教授と、イスラム学者中田考氏の対談で構成されている。ウイグル族弾圧について欧米の報道はいくつもあり、強制連行・抑圧・暴力・文化的破壊・漢民族化・レ…

事実か小説か、17歳リックの冒険

朝鮮戦争末期の1952年春、米国海兵隊の6名が旧満州吉林近くの人造湖に潜入した。目標は中国共産党が稼働させている原子力研究所。国民党軍や地元ゲリラの助けを借りて、これを破壊せよというミッションだった。若干17歳でこの作戦に参加したローレンス・ガ…

粛清と虐殺に明け暮れた独裁者

2022年発表の本書は、国際政治学者(元都知事というべきか?)舛添要一氏の独裁者シリーズ。前2冊はムッソリーニとヒトラーを取り上げたとあるが、トリのスターリンは2人を合わせた以上の「怪物」だったようだ。 グルジア(現ジョージア)生まれのヨシフ・…

NATO加盟の議論の前の予習

今日から始まるNATOの会議に、韓国の尹大統領とともに岸田総理が出席するという。もし日韓両国が加盟などということになったら、もはや「北大西洋」ではなく「北大洋」条約になって、NATO→NOTOになるかもしれない。 2021年発表の本書は、以前「プーチン幻想…

進化心理学から見たフェイク史

2022年発表の本書は、認知科学を専門とする石川幹人博士のフェイク史。フェイクニュースが社会全体の脅威になりつつある今、科学的な対応が可能かを知りたくて本書を読んでみた。 「協力するサル」である人類は、食糧の少ない草原で生きるため、50~100人の…

21世紀最大の市民運動

1997年の今日(7/1)、香港は中華人民共和国に返還された。中国の一部とはなるのだが、その後最低50年はこれまでの世界に開かれた都市である「一国二制度」が続くはずだった。しかし結果は、その半分も期間も経たないうちに、事実上併合されてしまった。 202…

大戦が破壊した欧州の精神構造

1914年の今日(6/28)、サラエボでオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子夫妻が暗殺されたことで、欧州における100年の平和は破られた。あしかけ5年にわたる第一次世界大戦の始まりである。欧州では「大戦」といえば第一次を指すことが多い。第二次は第一次…

PKO任務が持つ2つのリスク

2022年発表の本書は、ジャーナリスト布施祐仁氏の日本PKO録。闘わなくてもいい軍隊としての自衛隊の実態や課題を多くの書で見てきたが、自衛隊員が本当に撃ち合いになるかもしれないと感じたケースのほとんどは海外派遣(PKO)だった。 筆者はイラク派遣の実…

20世紀、空の闘いのドキュメント

1996年発表の本書は、航空小説作家のスティーブン・クーンツが、第一次世界大戦からベトナム戦争までの空の闘いを記したドキュメンタリーを抜粋・再編したものである。邦題は「撃墜王」となっているが、収められている21の物語には戦闘機だけではなく爆撃機…

21世紀、ロシアの謀略・工作

2020年発表の本書は、日経紙でモスクワ特派員などを経験した古川英治氏のロシア謀略レポート。かつての超大国ソ連は解体され、ロシアが世界有数と思えるものは核戦力くらいしか無くなってしまった。ハードパワーもソフトパワーも、世界10位に入るのは難しい…

軍部専横のきっかけ

昨日「満州某重大事件」こと張作霖暗殺事件の首謀者、河本大作(当時)大佐の一代記を紹介した。この事件を戦前日本の凋落のきっかけとなったものと捉えた歴史家大江志乃夫が、昭和天皇が亡くなった後の1989年に発表したのが本書である。 暗殺事件は1928年6…

超大国の時代を前にした決断

本書は1978年に発表された、陸軍大佐河本大作の一代記である。河本大佐といえば「満州某重大事件」の首班で、当時北京から中国東北部に勢力を張って「大元帥」と言われた張作霖を暗殺した人物として知られている。1928年、中国大陸の動乱は収まる気配を見せ…

兵士の顔が写っている!

ロバート・キャパは、ハンガリー生まれのユダヤ人。本名をアンドレ・フリードマンという。20歳前に生まれ故郷のブダペストを脱出、ベルリンからパリへ渡り写真家を目指した。彼はスペイン内戦で取材をし、兵士が銃弾に斃れる瞬間を切り取った写真が<ライフ…

潜水艦艦長の架空戦記

本書は、以前「本当の潜水艦の戦い方」を紹介した中村秀樹氏の架空戦記。作者は海上自衛隊で潜水艦長を経験し、防衛研究所での太平洋戦争の潜水艦戦史研究で知られた人。 隠密性が命の難しい艦種 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp) テーマは定番のミッドウェー海…

新聞・TV・Web言論の歴史

2020年発表の本書は、憲政史学者倉山満氏の政治言論の戦後史。筆者は、ネット上の<チャンネルくらら>などを通じて保守政策論を発信している。しかし本当の保守論者は近年ほとんどおらず、過激なカッコ付きの「保守」と「ネトウヨ」に分かれて、それらが内…

若い変人参謀を重用した度量

以前日露戦争の陸の英雄秋山好古少将(当時)の伝記を紹介したが、本書はその10歳下の弟秋山真之少佐(当時)の伝記である。父親の引退と長男の体調不良によって、秋山家は貧しい暮らしをしていた。好古は任官して俸給の大半を実家に入れ、「淳(真之の幼名…

危機管理人生の原点

1997年、香港返還の年に発表された本書は、昨日「目黒警察署物語」を紹介した初代危機管理監佐々淳行氏の香港領事時代の記録(記憶?)。筆者は30歳前(当時警視)に領事として香港に赴任、現地で次男・三男が生まれている。赴任当時は「返還まで30年ある」…

初代内閣安全保障室長の青春

1989年発表の本書は、初代内閣安全保障室長などを務めた危機管理の専門家佐々淳行氏の青春録。東大法学部を出て今の警察庁に入庁した筆者は、研修後目黒警察署に配属される。階級は警部補で、署長(警視)ら幹部から「君は三級職(キャリア)だから警部補だ…

もともと特別な連合国家

今日からG7広島サミットが始まる。ただ参加各国首脳は皆、内憂外患の中にある。特に初参加になる英国スナク首相は、厳しい政治環境に置かれている。ウクライナ紛争で情報戦や軍事支援で存在感を示すものの、英国の衰退は明確だ。国内は、財政不安・物価高騰…

平和主義と戦争研究

本書は、国際政治学者藤原帰一教授の近著・・・と思って買ってきたら、2003年発表の書のリメイク(2022年出版)だった。しかし不思議なことに、論じられている国際情勢やイデオロギー対立、戦争と平和などは、現在にあてはめても十分意味がある。 冒頭、戦争に…

それでもプーチンは闘う

2022年発表の本書は、以前「米中戦争~その時日本は」を紹介した元東部方面総監渡部悦和氏が、井上武元陸将・佐々木孝博元海将補との対談でまとめたウクライナ紛争(初期)の分析。巻末に、世界はどう変わり、日本はどうすべきかの提案もある。 侵攻開始から…

大きくなればなるだけ弱くなる

2021年発表の本書は、以前「戦争にチャンスを与えよ」「中国4.0」を紹介した、CSIS上級顧問エドワード・ルトワック氏に奥山真司氏がインタビューしたまとめたもの。前2作と同様の建付けである。軍事史・戦略史に詳しいルトワック氏は、中国の習政権は追い詰…

脅威=手段✕機会✕目的✕動機

2021年発表の本書は、何度かご紹介している元外交官宮家邦彦氏の近著。氏の論説や「朝までナマTV」などでの発言には重みを感じているのだが、本書は飛び切りのインテリジェンス教本である。現在の日本が直面する最大のリスクは、台湾有事と考えてもいいだろ…

航空戦力強化のトライアル

第二次世界大戦は、戦略的には「空の闘い」だった。陸上・海上を問わず、制空権なき側は必ず敗れた。膨大な記録も残されていて、僕らは ・戦闘機 零戦、Bf109、Fw190、F6F、P51、スピットファイア ・爆撃機 一式陸攻、Ju87、Ju88、B17、B25、B29、アブロラン…

3人のドイツ航空技術者

第一次世界大戦で敗戦国となり、多くの「枷」を掛けられたドイツだが、1930年代に奇跡とも思える復活を遂げる。政治的統一・産業振興・軍備の拡張のいずれもが、上手くいっているように見えた。その中の一つに、航空機産業がある。日本も含めて各国が航空機…