新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

戦場に降臨する作家

 柘植久慶という作家は元グリーンベレー大尉と称していて、1986年「ザ・グリーンベレー」という本でデビューした。サバイバルに関するもの、歴史上の戦略・戦術・指揮官に関するもの、架空戦記というにはあまりにリアルな小説など、膨大な著作がある。以前「前進か死か」(全6冊)を紹介しているが、このシリーズは本当にリアルな戦争というものを僕に教えてくれた教科書と言ってもいい。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/05/01/120000

 

 作者が、1993年から描き続けている「逆撃・・・」というシリーズがある。御厨太郎と言うタイムスリップ能力を持った作家(というより作者の分身)が、いろいろな戦場に降臨して指揮を執り闘う物語だ。関ケ原に始まり、川中島など戦国時代の合戦に御厨がいずれかの陣営の軍師になって歴史を変えようとする。彼の闘う場所・時間はどんどん広がり、ドイツ第三帝国ナポレオン戦争ハンニバル戦争などに及ぶ。本書は2002年に発表された「三国志」を舞台にした第一作である。

 

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 作者には「三国志合戦事典」という著書もあって、十分な調査は済んでいたのだろう。作戦分析をして「こうすれば勝てた」を理解した上での、架空戦記ということになる。本書では御厨は208年の中国、魏軍に追撃される劉備玄徳の軍に降臨する。「長坂波の闘い」で劉備軍を奇襲から守り、「赤壁の闘い」でも諸葛孔明の向こうを張って戦略を展開する。これで呉の国に人脈を作った彼は224年蜀の国に再臨、玄徳亡き後の蜀で丞相となった孔明を助けて南征や北伐に尽力する。

 

 何しろ未来人なので、これから何が起きるかは分かっている。軍師の能力の上に予言もできるので、さしもの孔明も重用せざるを得ない。御厨の狙いは蜀の運命を掛けた乾坤一擲の北伐で司馬仲達を打ち負かし、長安・洛陽を占領して「蜀の中原制覇」を成し遂げること。史実では五丈原で、孔明は仲達に敗れている。

 

 雲南を制したことで食料供給と経済を好循環させることなど、単なる戦術ではない「こうしたら」が随所に盛り込まれている。また歴史上の人物についての作者なりの「好き嫌い」もあって「三国志演義」が頭にある日本人にはサプライズも用意されている。ある意味書き流しのようなシリーズですが、時間のある時に手に取るには適当です。肩がこらない本ですからね。