本書はSF小説創成期の大家、H・G・ウェルズの「改造人間もの」である。「宇宙戦争」や「タイムマシン」が有名なのだが、本書「モロー博士の島」も古典として語り継がれるべき作品だと思う。マイクル・クライトンの「ジュラシック・パーク」も、本書の流れにあると考えられるからだ。
本書の発表は1896年、まだシャーロック・ホームズが活躍していたころである。南太平洋で遭難して約一年後に生還を果たした青年エドワードが残した手記を、死後に公表する形式をとった小説である。
船舶の衝突事故から救命ボートで脱出した3人だが、エドワード青年だけが生きて南海の孤島にたどりつく。そこは高名な生物学者モロー博士とモンゴメリーという男のほかは、獣とも人ともつかぬ異様な生物が暮らす島だった。
獣人たちは片言の英語を話し、モロー博士らの命令をきくようしつけられている。そして、5つの掟を斉唱させられている。曰く、
・四つ足で歩くなかれ。
・口をつけて飲むなかれ。
・生肉生魚を食べるなかれ。
・木の皮で爪を研ぐなかれ。
・ほかの人間を追うなかれ。
の5項目である。ナマケモノや豚、猿はもとより、ハイエナやヤマネコをベースとして、いろいろな動物の「部品」を切り貼りしてモロー博士が造った獣人は120体を数えた。博士とモンゴメリーは獣人たちに言葉や道具の使い方を教えている。5本の指がそろっておらず道具をうまく使えない獣人もいるが、島は割合平静を保っていた。
しかしある日、モロー博士が怪力のピューマを改造しようとして失敗、半端な状態で森に逃げられてしまう。この事件を契機に不満を持っていた獣人たちが「蜂起」して、博士は命を落としてしまう。一旦は獣人たちの乱を収めたエドワードとモンゴメリーだが、博士抜きで長く秩序を保つことはできなかった。
本書を原作に、映画化は3度行われている。1933年版と1977年版(バート・ランカスター主演)に続いて、原作発表から100年ほどたった1996年に「D.N.A./ドクターモローの島」というタイトルで公開されている。モロー博士を名優マーロン・ブランドが演じている。
原作では未開人をキリスト教に改宗するように、獣人にも「主の恩恵」を説くシーンが僕のような無神論者には分かりにくい。それを除けば、バイオSFホラーとして楽しく読めました。