2022年発表の本書は、ロシアのウクライナ侵攻とこれにともなう核を使うぞとの脅迫を受けて、専門家4名(*1)が対談した結果のレポート。長らく使われるはずのなかった核兵器が、ひょっとすると炸裂するかもしれない国際情勢の中で、日本の安全保障はどうあるべきかと論じたもの。
現在戦略核に限っても、米国3,570、ロシア2,440、中国320の保有が確認されている。このほか、北朝鮮も30発以上持っていると伝えられる。特に南シナ海を核要塞化し、内陸にサイロを多数建設している中国の台頭が大きい。核兵器自身、技術進歩によって、極超音速(マッハ5以上)のミサイルに搭載、小型化、サイバー兵器との連携でより使えるものに進化している。
また予想される核戦争の状況も、
・中国その他の台頭で、多極化
・ネット情報によるエスカレーション
・核抑止の歴史は「ごり押しの成果」の積み重ね
という時代の爛熟によって、より急迫してきた。
それなのに日本では、未だに「核兵器の是非」の不毛な議論に留まっている。非核三原則や、日本の核の傘、核共有、台湾への核の傘なども、生理的に嫌うのではなく、堂々と議論することが必要だ。あるべき姿としては、
・専門家だけの議論でなく、市民にも正確な情報を流して理解を深める
・ミサイル防衛はもちろん、自衛隊により深い核兵器の知識を持たせる
・サイバーや宇宙技術で、核兵器を使いにくくする研究開発を促進
・より長射程のミサイルを(米国と共同で)配備し、実用化訓練を続ける
なのだという。中曽根総理を除く歴代総理は、十分な核兵器からの安全保障の知識がなく、外交・防衛の両面で適切な対応ができていない。核絶対悪論者と、核武装論者の不毛な議論はそろそろ終わりにすべきで、政治が市民に真剣に向き合うことが重要。
正直、その通りだとは思うのですが、今の政治家の中でそれが可能な総理候補・内閣の顔ぶれって期待できますかね。ちなみにサイバー防衛についてのコメント(内閣に司令塔がない等)の指摘については、改善は進んでいると思います。
*1:高見澤將林:元軍縮会議大使、番匠幸一郎:元陸自西部方面総監、兼原信克:元国家安保局次長、太田昌克:共同通信編集委員