2025年発表の本書は、社会批評の著述家物江潤氏の「有権者自立論」。2024年の兵庫県知事選挙で、失職した斎藤前知事が下馬評を覆して再選を果たした。SNSが猛威を振るった選挙を見て、筆者は民主主義の危うさを感じた。
兵庫県知事選挙では、パワハラ等で旧メディアに叩かれ続けた前知事にSNSで応援する声が高まり、有力候補の稲村氏には(デマなのだが)疑惑が浮上した。斎藤氏は知事時代、県庁舎立替計画を白紙にしていたが、これに不満を持った(エリート)層が斎藤氏を貶め、計画復活を狙ったというもの。稲村氏は(口外していないが)1,000億円の立替計画を持っているとSNS上でストーリーを作られて敗れたわけだ。

ポイントは、以下の3点である。
・旧メディアに嫌われ、叩かれるヒーローになること
・ヒーローを讃える動画等を投稿すると再生回数が増え投稿者の収益が上がること
・上記のようなストーリーがまことしやかに語られ、多くの人がそれを信じること
世論はプロ斎藤とアンチ斎藤の二項対立に分かれ、旧メディアが予見できない結果をもたらした。副題にあるように、この場合有権者は自分の頭で考えず、SNS上の空気に支配されて投票をした。では、どうあるべきだったのか?
有権者の自立は、二項対立という作られた土俵を壊すか、少なくとも乗らず、自らの現在と過去を信じて判断することだという。庶民は本来、感情・慣習・良識・文化を持っており、ある面非合理であってもそれを信じて行動すべき。しかし専門家などの意見を容れて、大衆と化してしまうと判断を誤るとの主張だ。
6章立ての本書は、前半がSNS選挙の現状と問題点、なぜSNSが投票を歪めるのかを記したもの。後半が、では有権者はどうするべきかを問うたものである。前半の指摘は非常に面白く、真実を突いていると思う。しかしではどうすればの後半は、理系出身の在野の思想家吉本隆明の「自立の思想」を頻繁に引用し読みづらい。明日、高市第二次内閣が発足するにあたり、読んでおいた方がいい書であるのは確かですがね。