2024-01-01から1年間の記事一覧
本書は先月「神津恭介への挑戦」を紹介した、高木彬光の「恭介平成三部作」の第二作。前作で東洋新聞の社長令嬢清水香織が登場し、恭介を伊東の別荘から意見現場に引きずり出すようになったとの設定である。前作ではあまり目立たなかった香織自身の捜査活動…
本書は以前「京都ぎらい官能編」を紹介した、NHK「いけず京都シリーズ」の案内人井上章一国際日本文化研究センター所長が、2016年の新書大賞を受賞した記念作。筆者は京都市右京区嵯峨育ちゆえ、自己紹介欄に京都市ではなく京都府出身と書くという。外部の人…
本書は深谷忠記2006年発表の、壮&美緒シリーズではない単発ものである。僕の書庫に残っている、作者最後の作品である。作者の才能は疑いもないのだが、シリーズものに限界があるのも確かだ。どうしてもパターンが決まってくるし、壮&美緒の場合には官憲で…
1993年発表の本書は、ご存じ津村秀介のアリバイ崩し「伸介&美保シリーズ」。今回の舞台は十和田湖&奥入瀬渓流。風光明媚で有名な観光地でもあるのだが、とにかく不便なところだ。僕自身も何度も旅行の計画を立てて挫折し、結局仕事の付き合いで現地の販売…
1976年発表の本書は、西村京太郎の誘拐もの。作者はこのころ「消えた乗組員」「消えたタンカー」など、「消えた・・・」シリーズを発表している。非常にレベルの高い作品群で、消失トリックを極めようとしていた。本書では、当時野球ファンならずとも知らないも…
2023年発表の本書は、すでに10冊ほど紹介しているジャーナリスト大野和基氏が世界の知性にインタビューするシリーズ。今回のテーマは資本主義。欧米の学者8名がインタビューに応じていて、環境・経済・倫理・金融などの専門性から新本主義はどうすべきかを…
1947年発表の本書は、以前「被害者を探せ」「探偵を探せ」などを紹介したパット・マガーの最高傑作とされる作品。高名な評論家中島河太郎が1951年に発表したミステリーベスト10で、7位(*1)に入っている。作者は「被害者・・・」でデビューし、普通のミステリ…
本書は2010年に発表されたが胡錦涛政権では発禁とされ、習近平政権になった2013年に再版され、2020年に加筆されたもの。日本語訳(2023年)以前に米国では翻訳書が出版され、米国国防予算を50億ドル増やすことに寄与したという。著者の劉明福は山東省生まれ…
日本の学校教育の欠陥として「正解のある問題ばかりで、問題を探させない」との指摘がある。教育論はともかく、一般に問題は解くより探すのが難しい。ミステリーの女王アガサ・クリスティは、晩年このタイプの作品をいくつか書いた。1966年作品「第三の女」…
1939年9月、ナチスドイツのポーランド侵攻で、WWⅡの幕が上がった。以降、足掛け6年間欧州は戦乱に巻き込まれる。2000年発表の本書は、軍事史作家柘植久慶応のナチスドイツのコレクション本。作者自身がパリ(の古書店)などを巡って、収集した写真・ポスタ…
1940年発表の本書は、冒険小説の先駆者ハモンド・イネス初期の作品。1939年9月、ナチスドイツはポーランドに侵攻した。これまでオーストリアやチェコ、スロバキアなどを併合してきたヒトラーは、常に「これが最後の領土の要望」といいながら、さらに次を狙…
1997年発表の本書は、2ヵ月続けて紹介したドナルド・E・ウェストレイクの「ドートマンダーもの」。シリーズ第9作にあたり、時代が進んだことで450ページを越える大作になっている。「天から降ってきた泥棒」の冒頭、不運にも逮捕されてしまった運転役のオハ…
本書は「ロウフィールド館の惨劇」をはじめ、何冊かのサイコ・サスペンスを紹介してきたルース・レンデルの作品。「ロウフィールド・・・」の直前、1976年の発表である。ロンドン市西北のケンボーン・ヴェールという自治区では、ときおり女性が絞殺される事件が…
2021年発表の本書は、米国在住のジャーナリスト冷泉彰彦氏の米国警察事情。米国ミステリーは沢山読んでいる僕だから、米国警察組織についておおむねのことは知っているが、改めて確認しようと買って来たもの。よく映画等に出てくるFBIなどは連邦警察で、その…
2005年8月末、米国南部をカテゴリ3級の大型台風<カトリーヌ>が襲った。低湿地帯の都市ニューオリンズでは市街地の8割が浸水し、多くの犠牲者が出た。2011年発表の本書は、書店員や古書販売などを経験して作家に転じたサラ・グランの作品。本書でデビュ…
西暦663年の今日、27,000人の大軍で百済救援に向かった日本軍は、白村江で唐の水軍に敗れた。「大化の改新」で国力を増し、阿部比羅夫の蝦夷征伐で鍛えた水上戦力をもって、本格的に半島に侵攻しようとした大和朝廷は一敗地にまみれることになる。 1996年発…
2022年発表の本書は、放射線医学が専門で医療経営にも詳しい奥真也医師の「日本の医療制度診断診断」。題名に「医療貧国」とあるが、本書のデータを見る限りちょっと誇大広告。例えばOECD各国(カッコ内が平均)との比較で、 ・MRIは人口100万人あたり55台(…
今年になってようやく見つけた「泥棒バーニーもの」を、2冊紹介しているローレンス・ブロック。シリーズ長編も面白いが、特徴がより顕著なのが数ある短編。ハヤカワが独自に短篇集を企画していて、第一集「おかしなことを聞くね」は以前紹介した。今回、第…
1987年発表の本書は、従軍経験のあるフリージャーナリスト、アンドルー・カプランのスパイスリラー。作者はテルアビブ大学在学中に<六日間戦争>に参加、米国に帰国後も陸軍に入隊している。本書ともう1篇、片目のジャックことジャック・ソーヤーものを書…
1937年発表の本書は、不可能犯罪の巨匠ジョン・ディクスン・カーの<アンリ・バンコランもの>。作者の初期作品4作に登場するパリの予審判事で、メフィストフェレスのような風貌をして怪奇な事件を解決する名探偵である。 作者は30歳が近づくと、この(ある…
1956年発表の本書は、巨匠エラリー・クイーンの異色作。エラリーは一度も登場せず、主人公はリチャード(ディック)・クイーンと看護師ジェシイ・シャーウッド。2人は以前紹介した「真鍮の家」で結婚しているのだが、そのなれそめが本書の事件である。 ディ…
2021年発表の本書は、北京特派員経験もある朝日新聞記者福田直之氏の、中国デジタル社会レポート。「20世紀はオイルの世紀、21世紀はデータの世紀」と言われるように「Data Driven Economy」時代になっているが、データの利用にはいくつかの制約がある。特に…
本書は、以前「ダブル・ディーラー」を紹介したマックス・アラン・コリンズのCSI(ラスベガス版)もの邦訳第二弾。CBSの人気ドラマで、いくつものスピンアウトがあるが、このラスベガス版が本家。ラスベガス市警科学捜査班主任で、昆虫学者のギル・グリッソ…
しばらく前に紹介した高木彬光「七福神殺人事件」では、作者も主人公神津恭介教授も年齢を重ねていた。作者の体調不良もあり、かの作品(1987年)で恭介のシリーズは終了となるはずだった。しかしTVドラマ「神津恭介の殺人推理」の放映(恭介役は近藤正臣)…
昨日紹介した「警視庁最重要案件指定~靖国爆破を阻止せよ」で、日韓など外交関係の「古傷」を考えさせられたので、本棚から探してきたのが2008年発表の本書。著者の東郷和彦氏は元外交官。駐オランダ大使を最後に辞任(*1)したが、その後も米韓台各国の教…
2015年発表の本書は、2013年の「一千兆円の身代金」で<このミス大賞>を受賞した八木圭一の社会派ミステリー。慰安婦・徴用工・竹島問題などで日韓関係に亀裂が走り、SNS上で市民同士のののしり合いが続いている。国内でも韓国に強硬に対処するよう求める右…
このシリーズ6冊は「大鑑巨砲作家」横山信義の太平洋戦記。昨年紹介した「蒼洋の城塞」同様、少しずつBook-offの100円コーナで6冊を揃えた。このシリーズのアイデアは2つ。まず主人公たる戦闘艦が存在する。「巡洋戦艦浅間シリーズ」同様の設定で、今回は…
昨日の「秘録陸軍中野学校」の続編。同じく畠山清行の著作全6巻の内3~6巻124エピソードから39を保坂正康が選んで編集したもの。戦況の悪化に伴い、卒業生に求められるミッションも変わってきた。敵地に潜入して長期にゲリラ活動をする訓練も加わり、卒業…
本書は戦前・戦中の実録ものを多く遺した、畠山清行の「秘録陸軍中野学校*1」のうち1~2巻(1971年発表、エピソード60)から、ノンフィクション作家保坂正康が28エピソードを選んで編纂し文庫化したもの。 謀略戦としては、日露戦争時の明石大佐のロシア国…
2023年発表の本書は、これまで「秩父宮」「陸軍良識派の研究」などを紹介してきたノンフィクション作家保阪正康氏の、近代戦争史観。半藤一利氏が亡くなって、筆者は残された数少ない歴史探偵のひとりである。プーチンのウクライナ侵攻によって、WWⅢが近いと…