新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

政治・経済書

フランスの危機、2015年1月11日

本書は以前「グローバリズム以後」「ドイツ帝国が世界を破滅させる」などを紹介した、歴史人口学者・家族人類学者エマニュエル・トッド氏が、<シャルリーエブド事件>をきっかけに母国フランスを見つめ直した書。この出版社を襲ったテロ事件は2015年1月7…

政府へのデータ活用制約提案

21世紀は「Data Driven Economy」の時代だが、データの活用は産業界だけのテーマではない。むしろ各国政府にとって、より大きな意味を持つ。いい意味では「Evidence Based Policy Making」のような、確とした統計データに基づく政策決定のようなこともあるだ…

経済安保法制に影響した論説

昨日「中国のデジタル・イノベーション」という日中連携を推奨する本を紹介したのだが、2021年発表の本書はそれに警鐘を鳴らした。読売新聞が2020年に1年間、「安保60年」という連載を掲載した内容を書籍化したもの。中露対日米欧の「テクノロジー冷戦」が…

「大衆創業・万衆創新」の国

2022年発表の本書は、(一財)日中イノベーションセンター主席研究員小池政就氏の中国のイノベーション事情とそれを日本がどう生かすかのレポート。日中協力・連携を進める視点で、いくつかの主張が盛り込まれている。筆者の専門は国際関係、エネルギー、技…

グローバル時代、民主主義の危機

朝日新聞社は、毎秋「地球会議」という国際会議を開催して環境問題その他を議論している。2018年発表の本書は、2016・2017両年の会議に参加した世界の「知の巨人」4名の意見を編集したもの。テーマは「グローバル時代、民主主義の危機」である。4人の巨人…

個人株主へのガイドなの?

2021年発表の本書は、日経編集委員前田昌孝氏の現代株式市場論。「COVID-19」禍も1年が過ぎたころの出版で、個人投資家(含む予備軍)のいくつかの疑問に答えようとした書である。「老後2,000万円問題」などもあり、30年間給料の上がらない日本の労働者にと…

吉田・佐藤・中曽根・小泉&安倍政権

<外務省のラスプーチン>とあだ名された佐藤優元外交官、新自由主義を呪詛する論客法政大山口二郎教授。このお二人が対談した書というのでびっくりしたが、ほぼ15年の交流があったという。確かに主張に隔たりはあるが「政治的立場の違いは本質的な問題では…

近代日本の外交と軍事

2020年発表の本書は、第二次安倍内閣で内閣官房副長官補を努め初代の国家安全保障局次長を兼務した兼原信克氏の近代日本史概説。以前、筆者が陸海空の名将を集めて司会をした座談会をまとめた「令和の国防」を紹介しているが、本書は単独執筆。外交官として…

治安機関のDXレポート

今年から警察庁の会合のメンバーに加えてもらったことから、本書を送ってもらった。カラー刷り230ページの「重い」本である。定価は1,600円+税。今年は警察庁の中に<サイバー警察局>が新設された。内部部局としては、長官官房・生活安全局・刑事局・交通…

政権交代の条件

2021年発表の本書は、伝説のジャーナリスト田原総一朗氏の永田町考察。タイトルにあるように「自民党政権はいつまで続くのか」と思っている人は少なくない。NHK日曜討論に出ると「・・・だから自公政権は終わるしかない」と叫ぶだけの<れいわ新選組>は論外と…

市民運動出身の首長

20世紀の終わりごろ、TVで政治討論番組をよく見ていた僕には、自分からは遠い政党でありながら気になる政治家が2人いた。一人は先週「東電福島原発事故、総理大臣として考えたこと」を紹介した、当時社民連の菅直人議員。もう一人が社民党の保坂展人議員。…

「絶望社会」先進国の肖像

前の文政権が検察力を弱めようとして警察に肩入れし、今の尹政権が検察復権を目指して警察をスポイルした。その結果、梨泰院の事件がより多くの犠牲者を出したという。死者のほとんどは若者、特に女性が多かった。 2020年発表の本書は、在日三世のライター安…

混沌へと向かう米国と世界

「COVID-19」禍の2020年末発表の本書は、笹川平和財団上席研究員渡部恒雄氏の「トランプ以後」の国際情勢論。サイバーセキュリティや経済安全保障の観点から、国際情勢のお話を一度伺いたいと思っていて、その予習のために買ってきたものだ。筆者は米国の戦…

経済社会のエンジン・・・のはず

2017年発表の本書は、一橋大学名誉教授で経済学者の関満博氏の現代中小企業論。日本企業のうち14.7%が中堅企業、85%が零細含む中小企業であって、それらの企業について改めて勉強するために買ってきたもの。 著者は「45年ほど地域経済と中小企業を見てきた…

<子ども家庭庁>が参照すべき本

先月、大竹文雄教授の「競争社会の歩き方」を紹介した。僕にとって初耳の学問、行動経済学の入門書だった。2019年発表の本書は、その大竹教授が推薦する東大経済学部政策評価研究教育センター長山口慎太郎教授の著作。行動経済学を家庭(結婚・出産・子育て…

これも総裁選向けの出版

本書は、自民党総裁選を前にした2021年9月に出版されたもの。事実上、河野太郎候補の政権構想といっていい。DCのジョージタウン大学で学んだことや、父親洋平氏への生体肝移植のことが前半1/3を占めているが、残りは以下の点で政策論を述べている。 ・外交…

新興国・小国から見た中国

2021年発表の本書は、ルポライター安田峰俊氏が(「COVID-19」禍で海外取材が出来なくなって)これまでの取材データや海外ネットワークを使ってまとめたもの。冒頭各国の対中国感情の係数が示してある。日本は尖閣事件などあって2010年代初頭から係数が悪化…

マクロに捉えた47都道府県の産業力

2018年発表の本書は、帝国データバンクと読売新聞の中村記者による、「COVID-19」禍前の日本の産業界(景気)地図。最近デジタル政策もサイバーセキュリティ対策も東京視点だけでは不十分だと痛感させられているので、何かの参考になればと買ってきた。「ご…

闘えるようにするには

2日間に渡り紹介した書で、日本の防衛力の問題が明白になった。市民が防衛に十分な関心を持たないので、政治も行政も本気にならない。闘わないことを前提として、自衛隊は活動してきた。一部メディアや野党の反対コールに、政府全体が及び腰だ。それではど…

闘わなくてもいい軍隊ゆえ

昨日「防衛事務次官冷や汗日記」を紹介した。37年間防衛庁(後に省)の内局に努め、各幕(現場)と官邸・政治家や財務省などと「板挟み」になってきた黒木氏の経験談は、それなりの重みがあった。どの先進国にも、軍の暴走を防ぐ<シビリアンコントロール>…

シビリアンコントロールの37年

本書は「南スーダンPKO日報問題」で防衛事務次官を退いた黒江哲郎氏が、37年間の防衛省(庁)での思い出をつづった回顧録。2020年末から元防衛官僚を中心に作るサイト<市ヶ谷論壇>に掲載された記事を、2022年に書籍化したもの。基本的に防衛省もしくは中央…

「一帯一路」起点の人権

2019年発表の本書は、産経新聞で香港・北京取材が長かったジャーナリスト福島香織氏の新疆ウイグルレポート。習大人のグローバル政策「一帯一路」の陸の起点となる地域だが、ウイグル族他のイスラム教徒が多い地域に漢民族が入植を続けている。 ウイグル他の…

行動経済学の入門書

「競争と言うと、とかく日本では否定的に捉えられるが、自分の強みを見つけ社会を活性化させる機会」というのが、裏表紙の言葉。新自由主義の本かなと思って買ってきたのだが、そうではなく「行動経済学」の入門書だった。 著者の大竹文雄氏は大阪大学の教授…

パンデミック下の政治2020

本書は2020年1年間の、各国の対応状況を政治指導者に焦点をあててまとめたもの。ベルギー在住のジャーナリスト栗田路子氏が、各国の日本人ライターに声をかけて、現地の生々しい状況をレポートしてもらっている。 読んでみて、あらためて日本に入ってくる情…

G20国サウジアラビアの正体

一昨年のG20議長国だったサウジアラビア、別ブログで何度かとりあげているがデジタル屋にとっては中露と並ぶ困ったちゃんである。 行けなくて良かったかも - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com) ところが本書を読んで「国際データ流通に竿差す国」程度…

外交の勘なきは亡国

昨日元外務省分析官佐藤優著「ヤンフスの宗教改革」を紹介して、外交官には神学も必要との主張に(そこそこ)納得した。しかし一国の外交を担う者として、もっと多くの知識や教養が必要なはず・・・と思って手に取ったのが本書(2020年発表)。<外務省研修所>…

パンデミック後の「世界の知性」

本書は、以前「未来を読む」や「未完の資本主義」などを紹介した、PHP新書の「世界の知性シリーズ」。2021年発表で、いつものように、ジャーナリスト大野和基氏が世界の有識者にインタビューしたものだ。<Voice>誌に2020~2021年に連載された記事から9人…

犯罪かどうかの境目

憲法・民法・商法の裏表をわかりやすく紹介してくれたのが、弁護士ミステリー作家和久俊三の「おもしろ事典」シリーズ。実は本書(1977年発表)がその第一弾、「刑法おもしろ事典」である。作者もミステリーを書くにあたっては、殺人をはじめ重大事案を取り…

主張の9割に異論はなく

本書は2021年秋、自民党の総裁選挙を戦うタイミングで出版された、総裁候補の一人高市早苗衆議院議員の政策書。この時の総裁選には敗れたものの、党の政調会長に就任、今回の内閣改造では焦点の経済安保担当相となっている。「サナエノミクス」こと高市議員…

「基地の島・自然の楽園」の真実

僕ら夫婦も大好きな国内旅行先である沖縄、何がいいかと言うと、温暖でアロハで過ごせるところと、物価の安さ。僕は前者が、家内は後者が気に入っている。定宿のある宜野湾市は普天間基地を抱えていて、早く移転が完了してほしいと思ってもいる。 本書は2015…