新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

法は弱者を叩くためのもの

 本書(2018年発表)は、自身もユタ州の検察官・弁護士であるヴィクター・メソスのリーガル・サスペンスユタ州は中西部の南部よりの州で、2018年になっても黒人の人種差別が顕著なところだ。主人公のダニエル・ローリンズは、30歳代後半バツイチのお人よし弁護士だ。ストレスが加わる仕事のせいか、離婚した夫をいまでも愛しているせいか、夜な夜な酔いつぶれ「目覚めた時どこにいるかを確認する」日々だ。

 

 作者には50余りもの作品があるということだが、なかなか達者な筆使い。主人公と周りの人たちの「とっぴすぎない」ユニークさがいい。元夫のステファンはダニエルとの間にできた息子が10歳になっても、学者志望の大学院学生を続けている。ステファンの現在の恋人は大金持ちの女、猛獣狩りなどの荒事が大好きで地下室にはゾウや虎を倒して獲ったモニュメントが飾られている。

 

 今回ダニエルのところに持ち込まれた事件は、もうじき18歳の黒人少年テディが麻薬の運び屋の容疑を着せられたもの。両親は白人で、テディは赤ん坊の時に養子になった。テディには知恵遅れの傾向があって、両親は愛は注ぐもののそのケアに疲れ切っていた。

 

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 ダニエルはテディが自分の意志で運び屋をしたとは思えず、誰かにはめられたと考えた。8キロものコカインを運んでいたのだが、知恵遅れの少年となれば裁判にまではならないはずだった。しかし検事局も判事も強硬で、本来少年審判にかけるべきところを「重罪ゆえ」成人審判にかけられてしまう。

 

 知恵遅れのテディが、拘置所や刑務所に長くいられるはずもない。ダニエルは精一杯の法律知識を使って拘置させないように務めるのだが、受け入れられない。これには、

 

・容疑者が黒人で、証言をしているのはみんな白人

・未成年の刑罰を重くしようとする法律改訂の動きに利用された

 

 のではないかと、ダニエルは考える。作者は「法制度は力のない弱者を叩き潰すために作られている」と言っている。作中に登場するいくつもの「ちょっとした悪事」の中には唖然とするものもあるのだが、作者は「すべて真実」と言う。喧嘩っ早くて困った人をみると助けずにいららないダニエルのモデルは、人権派弁護士としての作者の姿なのかもしれない。

 

 いい作家だと思うのですが、邦訳は本書だけらしいです。ちょっと残念。