以前全15巻の最終巻を紹介した、笹沢左保の「木枯し紋次郎シリーズ」。紋次郎はライバル峠花の小文治の最期を看取って、いずこへともなく姿を消した・・・しかしTV・映画業界が人気者を放っておいてくれるはずもない。解説には、1993年に「帰ってきた木枯し紋次郎」という映画が封切られたとある。
「ゴルゴ13」のように全く年を感じさせず活躍を続けるヒーローもあるが、リアルを求める作者はそんなことはしなかった。本書に始まる5巻ほどの「帰ってきた・・・」短編集では、紋次郎は40歳近くになっている。
寿命が50歳ほどだった当時、40歳は中年から老年に近づく年齢。苛烈な一人旅を続ける渡世人は、そこまで生きられる方が珍しい。紋次郎ほど度胸と腕があっても、若いころのように駆け回って長脇差を振り回し続けることはできない。最初の短編「生きている幽霊」では、紋次郎は8人の渡世人を倒すのだが自らも深手を負い、心臓の病気も発して死にかける。

しかし10年前に命を救った上州板鼻宿の花菱屋の主人に助けられ、命拾いをする。半年ほど花菱屋の離れで静養できたが、以前のような立ち回りは難しくなっている。「いつまででも居てください」と言われるのだが、せめてもの恩返しに斧を使った薪割りをする日々だ。
天領の板鼻宿は、ときおり巡ってくる「八州廻りの出役」さえ来なければ、規制の緩いところ。紋次郎は花菱屋に隠れ住んで、ひと時の平穏を味わっていた。しかし平和に見えるこの宿にも、事件は起きる。女郎が脇差で「自害」したり、名家のグレた次男坊が暴れたり、豪商をかたる盗賊が現れたりする。
花菱家の主人に頼まれると「あっしには関わりの・・・」などとも言えず、紋次郎は事件解決に乗り出す。それは若いころのように大立ち回りをするのではなく、剣豪の浪人に策略で立ち向かうように、知恵を絞ったものになる。
40歳も近くなった渡世人の行く末は「野垂れ死に」が普通、そんなリアルを紋次郎というヒーローにどう当てはめるか?ストーリーテラーである作者の腕の見せ所と言えよう。
本編15巻より、ずっとミステリーとしての内容が充実した「帰ってきた・・・」シリーズ。数冊あると言うので、探してみることにしました。