新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

死刑囚と事件記者の一日

「暗闇の終わり」に始まる事件記者ジョン・ウェルズが主人公の4部作については、先月から今月にかけて全てご紹介した。息子を自殺させ妻にも逃げられた記者の悩みと事件追及の情熱が、全編を貫いていた。 https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/02/23/…

護衛艦「ふゆづき」の海賊狩り

本書は海上自衛隊護衛艦艦長、幹部学校教官、護衛隊司令、総監部防衛部長などを歴任した渡邉直が、ミリタリーマガジンの携帯サイトに連載していた「南海の虎ー小説海賊物語」を文庫出版したものである。時代は20xx年となっているが、登場する艦艇から見て202…

救急救命医療の現実

本書は、海堂尊の「田口・白鳥シリーズ」の第三作。「チーム・バチスタの栄光」「ナイチゲールの沈黙」に続くもので、竹内結子・阿部寛主演で映画化されたシリーズでもある。舞台は東城大学医学部付属病院、第一作で心臓外科を、第二作で小児科を扱って、本…

リアルな「ちょい悪刑事」

カッパノベルズは、正直あまりたくさん買った記憶はない。日本のものばかりであることも理由の一つだが、お値段がやや高めで1冊の体積も大きいのが問題。お値段の方は、Book-offの110円コーナーで探すのならハヤカワや創元社のものと同じになった。しかし体…

海兵隊員の死闘

75年前の今日は、硫黄島の栗林兵団が組織的抵抗を終えた日である。2週間前の3月10日は東京大空襲の日で、10万人以上の市民が犠牲になっている。グァムやサイパンからのB-29だけでもこれほどの被害を受けるのだから、東京からわずか1,000kmしか離れていな…

サイバー戦争を予言したシリーズ

軍事スリラーものの大家トム・クランシーは、生涯で何度も共著者を変えている。1998年頃から、近未来スリラーの新しいシリーズ「Power Plays」を始めたが、この時の共著者がマーティン・グリーンバーグ。同名のSF評論家がいて、Wikiでもなかなか正体がわから…

会社は株主のもの・・・

本書は、以前「憲法おもしろ事典」「民法おもしろ事典」を紹介した、弁護士ミステリー作家和久峻三の「おもしろ法律シリーズ」の一冊。のちの生活の安定を思って工学部に進学し、法学者になることをあきらめた僕にとって、大学生以降「法律は趣味」になって…

クライシス・コミュニケーション

今年初めに三菱電機や日本電気へのサイバー攻撃があったとの報道があり、いずれも1~2年過去のものだったにもかかわらず、しばらく世間を騒がせた。産業界ではこのような事態を受けて、改めて「クライシス・コミュニケーションどうあるべき」の議論が始ま…

Global TAX Warfare

いわゆるGAFAのような企業が税金を十分に払っていないという指摘は昨年急に脚光を浴びてきて、フランスなどは(ルクセンブルグにEU本社のある某社に)独自の課税をすると息巻いている。EU内のサービス提供は、どこかの加盟国で税金を払えばいいはずなのに・・・…

小説の形をした教科書

柘植久慶という作家には多くの軍事スリラーの著書があって、「前進か死か」全6冊などは本当にリアルな作品で何度も読んだ。一方ビジネス書やサバイバル書も多く、「パーフェクトコマンダー」という前線指揮官の心得を書いた本は、以前紹介している。 https:…

北方領土ビジネスとの闘い

鈴木宗男議員は、昨年の参議院議員選挙で「日本維新の会」から当選、三度目の国政復帰を果たした。もともとは中川一郎衆議院議員の秘書で、中川議員の死後衆議院議員選挙に当選した。地盤を奪ったという噂もあり、息子の中川昭一議員との確執は(本書には触…

包丁より推理が切れる料理店主

作者の陳舜臣は、僕にとっては中国史の大家。「小説十八史記」や「秘本三国志」から、「中国五千年」「中国の歴史」「耶律楚材」などたくさん読ませてもらった。1924年神戸市生まれの中国人だが、日中両国の文化を十二分に理解した人で、両国関係が微妙な昨…

アイデアそのものは不滅

広田厚司という人は、会社勤めのかたわら欧州大戦史を研究し、雑誌「丸」などに多くの投稿をしている。この光人社NF文庫にも多くの著作があり、先日紹介した三野正洋とは少し違った視点で第二次世界大戦の兵器を分析している。 本書は第二次欧州戦線に現れた…

惑星タイタンのナメクジ

「宇宙の戦士」などのSF作品で有名なロバート・A・ハインラインは、5年間海軍士官として駆逐艦などに乗り組んでいた。しかし第二次世界大戦を前に病気を得てエンジニアリングの世界に転じ、大戦中はレーダー関係の技術者として「カミカゼ」の検知技術向上に貢…

極寒シカゴの女探偵

サラ・パレツキーのV・I・ウォーショースキーものの第三作が本書。ヴィクことミズ・ウォーショースキーはアラサーのバツイチ女探偵、ホームグラウンドはシカゴである。僕は経験がないが、シカゴの冬は零下30度にもなるという。この極寒の街で、ヴィクは大掛か…

純粋心理推理の物語

本格ミステリーというのは、非常に幅の狭い文学ジャンルである。数々の宿命や先人の作品という制約の中で、大家たちは挑戦を続けたものだ。その意味では、後年精彩を欠いた(編集に傾倒し過ぎた?)エラリー・クイーン、密室を隅々まで掘り返しやがて歴史も…

事件記者対悪徳警官

キース・ピータースンの、事件記者ジョン・ウェルズものの4作目で最後の作品が本書。なんどもウェルズの前に現れていた悪徳警官、トム・ワッツとの決着をつけることになった。ワッツは以前警部だったが、ウェルズに不正を摘発され警部補に格下げになった。…

人道主義者との闘い

本書はトム・クランシーとスティーヴ・ピチェニックの共著による、米国の危機管理組織「オプ・センター」ものの第6作。舞台はニューヨークなのだが、アメリカであってアメリカでないところ「国連」である。 今回の悪役は、5人のテロリスト。ブルガリア人傭…

ヒッピーたちのその後

ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズも本書(2003年発表)で30作となった。スペンサーは朝鮮戦争従軍経験もあるということだったから、普通ならこの時点で70歳を越えているはずだが、私生活含めて若々しい。ただスーザンと飼っていた愛犬パールは前作…

悪女の皮肉な戦い

パトリシア・マガーは本格手法での変格ミステリーを得意とした作家だと、以前紹介した。彼女は大学でジャーナリズムを専攻、道路建設協会の広告部勤務を経て「建設技術」という雑誌の編集を担当、戦後間もない1946年に「被害者を探せ」でデビューしている。…

4人の一人称ドラマ

カトリーヌ・アルレーはサスペンスものを得意としたフランスの作家、特に悪女を描かせたら一流の腕前を発揮する。生年月日も不詳、元女優だったとも言われるが経歴についても分かっていない。第二作「わらの女」がヒットし、これについては以前にも紹介した…

周遊券と急行列車の想い出

当時の国鉄総営業キロ数は、約20,800km。これを全線乗り潰すという愚挙とも快挙ともつかないことに挑戦する話を聞いたのは、大学に入った時。クラスメートの一人がそれを目指していて、高校まではほとんど遠出をしたことのない僕には全く新しい世界だった。 …

逃亡者と追跡者

「逃亡者」というTV番組が日本でも放映されて、時々見ていた。妻殺しの濡れ衣を着せられた医師が、真犯人と目される「片腕の男」を追いながらも自らも官憲から逃亡するという、1960年代の連続ドラマだった。1993年に映画化され、逃亡者ハリソン・フォード…

悲劇4部作完結

エラリー・クイーンがバーナビー・ロス名義で発表した、「Xの悲劇」に始まるドルリー・レーンもの4部作は、本書で完結した。聴覚障害になって舞台を降りたシェークスピア劇の名優を探偵役にしたシリーズは、先輩格のS・S・ヴァン・ダインより、本家のエラ…

8月のマンハッタン

ニューヨークという街も、意外と自然環境が厳しいようだ。蒸し暑く、少し歩いただけで汗がしたたり落ちると本書にある。暑さがピークの8月、大富豪はみなヨーロッパに行ってしまう。裕福な人たちは、国内だが夏の別荘に出掛けて留守。一般の労働者も、かな…

未曾有の大海戦

のちの第二次世界大戦において「レイテ海戦」と呼ばれた闘いが最も近いかもしれないのだが、空前絶後数の「主力艦」が狭い海域にひしめき、雌雄を決しようとしたのが「ジェットランド沖海戦」である。もちろん両者の間には30年の時差があり、その間に航空機…

ミステリーTVドラマの金字塔

リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンクはユニバーサルTVのプロデューサー。コンビを組んでいくつものTVシリーズを書き、TVのオスカーである「エミー賞」の最優秀脚本賞を2度受賞している。彼らの脚本で日本で一番よく知られたのは「刑事コロンボ」だ…

キングスフォード署の首席警部

「ロウフィールド館の惨劇」を代表に、サイコ・サスペンスの名手である女流作家ルース・レンデル。平凡な日常に隠された怨念のようなものが、些細なきっかけで噴き出す恐ろしさは類を見ない。日本に紹介されている作品の大半がそうなので、僕はサスペンスも…

犯罪は引き合わない

ヘンリー・スレッサーは1927年ブルックリン生まれ、コピーライターを振り出しにディレクターなどを経て、広告代理店を経営するようになった。本業のかたわら1950年代から短編ミステリーを<EQMM>などの投稿するようになり、「グレイ・フラノの屍衣」でアメ…

五大湖の海運事業

シカゴの女探偵ヴィクことV・I・ウォーショースキーが登場する第二作が本書。前作で巧妙な保険金詐欺を暴いた彼女は、五大湖の巨大な海運事業にかかわる事件に挑む。ヴィクのたった一人の親近者であるブーム・ブーム青年が死んだ。彼はヴィクの従兄弟にあたり…