新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

政治家たちはどう考えたか

昨日「Brexit」を巡る2016年の国民投票について、労働者たちはどう考えて投票したか、その背景を「地べたからの解説」してくれる書を紹介した。最大の関心事は移民問題だが、移民が憎いというよりもキャメロン政権の極度な緊縮財政で公共サービスが減り、減…

半固定の階級社会と移民

「Brexit」の流れで、スコットランド独立の気配が出てきてしまった英国。北アイルランドはもちろんウェールズにも怪しげな動きがあり、本当に4つの国になってしまうかもしれない。国際政治やサイバーセキュリティで学ぶところの多い国だが、内政に関しては…

アフリカ沖のトミーとジェリー

第二次世界大戦の大西洋での海戦といえば、英国作家を多く思い出す。例えば、ダグラス・リーマンの諸作は何冊も紹介している。これに比べ英国海軍と戦った相手、ドイツ海軍を主役に据えた話は、少なくとも日本ではあまり多く紹介されていない。以前、「Uボー…

三人の元IRAメンバー

これまでも、ジャック・ヒギンズの作品をいくつか紹介してきた。おおむね英国情報部ファーガスン准将と彼が使う工作員のシリーズと、ノンシリーズに分けられる。ノンシリーズは時代も登場人物もまちまちなのだが、本書ではシリーズのレギュラーメンバーが何…

ゲタ履きの万能機

航空戦力の充実が急務となっていた1930年代、各国は爆撃機・戦闘機だけでなく偵察機の開発にもしのぎを削った。陸戦と違って海上戦力は、どんなに強い戦闘力を持っていても、相手がどこにいるかが分からなければ戦いようがない。1万トン級の体躯を誇った巡…

主要国の「サイバー戦略」

今日本でも「次期サイバーセキュリティ戦略」の策定が急がれているが、従来より安全保障色の強いものになっていると聞く。その背景は、サイバー空間での国家レベルの暗闘が激しくなっていること。2019年発表の本書は、その実態をヴィヴィッドに描いたもので…

断片しか知らない歴史

世界最強国家である米国が、アジアの小国に敗れた。この評価は正しくないかもしれないが、少なくとも米国人の多くはそういう傷を心に持っている。もちろんその小国とは日本ではない、ヴェトナムである。 第二次世界大戦に勝って唯一の超大国になった米国だが…

「真田太平記」13の巻

本書は歴史小説の大御所池波正太郎の手になる、その後の真田家の物語である。以前紹介した「真田太平記」全12巻は、11巻目でクライマックスともいえる「大阪夏の陣」が終わり、12巻は徳川方として生き残った真田信之が、信州松代10万石の基礎を固める話だっ…

幕末、雲見番始末記

以前泡坂妻夫の「亜愛一郎の狼狽」を紹介したが、本書はその時代劇版。時代設定は幕末なのでもちろん愛一郎は登場せず、その祖先と思われる亜智一郎が主人公である。第13代将軍家定と第14代将軍家茂には、直属の隠密部隊「雲見番」がいたという設定。天候・…

米軍が最大の犠牲を払った闘い

76年前の6月末、3ヵ月に及ぶ連合軍の沖縄作戦は終了しようとしていた。日本軍10万人、連合軍15万人が参加し、45万人の沖縄住民を巻き込んだ闘いだった。住民の1/3が犠牲になったとも言われ、その傷跡は今でも沖縄の地に残っている。 1944年10月、サイパン…

2年間で変わったこと

本書は日経編集委員の滝田洋一氏が、亥年の始めに当たり国際情勢を俯瞰して見せた書(2019年1月出版)である。トランプ先生と習大人が表紙でにらみ合っているかのように見えるが、これが本書のキーワード「チキンゲーム」である。どちらも内外に弱みは見せ…

演劇関係者の執念

本書は先月シリーズ第一作「迷走パズル」を紹介した、パトリック・クェンティンのダルース夫妻もの。前作ではアルコール依存症でレンツ博士の病院に入院していた演出家のピーター・ダルースが、駆け出し女優のアイリスと知り合い病院で起きた殺人事件に巻き…

これなら争点になるのだが・・・

近づく総選挙、野党の中でも維新の会は「ベーシック・インカム」と消費減税を掲げて戦う姿勢。野党第一党の立憲民主党は「枝野ビジョン」は出たものの、抽象度が高い。共産党との合同出版も延期となり、政策の基本線が見えてこない。 2017年の総選挙直前、民…

サイコサスペンスの古典

以前「動く標的」などを紹介したハードボイルド作家ロス・マクドナルド。彼の本名はケネス・ミラー、本書「狙った獣」の作者マーガレット・ミラーの夫である。二人は高校時代から知り合いだったが、マーガレットは市会議員の娘。ケネスにとっては高嶺の花だ…

He219A-5/R2「ウーフー」

第二次世界大戦は、間違いなく「空の戦い」だった。陸戦・海戦を問わず、制空権なき側は必ず敗れた。また一般市民を巻き込んだ「戦略爆撃」という手法が、本格的にとられた闘いでもあった。第一次世界大戦では、ドイツの飛行船がイギリス本土を爆撃するなど…

FBIの捜査能力に関する議論

昨日TVドラマ「CSIサイバー」をご紹介したが、それを実践しているFBIと関連機関の実情を記したのが本書。2017年発表と少し古いのだが、デジタル技術を使った米国捜査機関の活動の流れを追うだけでも意味があると思って買ってきた。 さらに今日本政府で議論さ…

サイバー犯罪科学捜査班

これまで、米国CBSのドラマNCISとCSIを取り上げてきた。前者は国際線のフライトで英語に耳を馴らすために見始め最近はDVDを購入しているし、後者はノーベライズされた翻訳ものを買ってきた。前者のノーベライズはないようだが、後者のDVDは見つけた。いずれ…

歴史はフィクションである

本書の作者は西洋史を題材とした小説が得意で、1999年に「王妃の離婚」で直木賞を獲得したこともある。英仏100年戦争を舞台にしたものとして「傭兵ピエール」「赤目のジャック」などの作品がある。ただ本書は小説ではなく、作者のバックボーンたる英仏100年…

中国の人口はまだ4億人

本書(2017年発表)の著者川島博之氏は、東大大学院農学生命科学研究科准教授。専門は環境経済学、(土地)開発経済学。食糧危機対策や日本の農政改革に係る著書があるが、中国に多くの教え子がいて彼らを訪ねてかの国の地方を巡った経験が豊富。 出版のころ…

英国冒険小説の傑作なの?

007譚を引き合いに出さなくても、英国人の冒険小説好きは有名な話だ。エンタメ風のものでなく、シリアスな冒険小説の人気も高い。僕も学生の頃にジョン・バカンの「39階段」、文豪サマセット・モームの「アシェンデン」などの名作を読んで、強い印象を持って…

死者常食族ウェンドルの正体

1976年発表の本書は、以前「アンドロメダ病原体」や「5人のカルテ」を紹介した才人マイクル・クライトンの第7作にあたる。上記2作は医師ならではの作品なのだが、進化論や歴史にも知見を持つ作者は、本書のような歴史書に近い作品も遺している。 10世紀、…

なるほど右翼はこう考えるのね

「小さな政府 vs. 大きな政府」が遠くなってしまって、いまや「大きな政府 vs. もっと大きな政府」の選択肢になってしまっていると嘆いている僕だが、政治家(政権ではない)の選択には「保守 vs. 革新」というものもあったことを、本書のタイトルを見て思い…

正しいこと、イスラエルと世界のため

「アラブの海に浮かぶ国」イスラエルは40年前の昨日、イラクの狂犬と呼ばれたサダム・フセインが建設中だった原子炉を空爆し、これを完全に破壊した。サダムはこの原子炉「オシリス」を使って核兵器開発を考えていたと思われ、アラブ諸国の核武装はユダヤ民…

英ソ海軍の共同作戦

1981年発表の本書は、以前「志願者たちの海軍」など3冊を紹介した、ダグラス・リーマンが得意とする小型艦の戦争物語り。「志願者たち・・・」同様、主人公の主な敵はナチスドイツの全金属性高速艇「シュネルボート」。これを英国海軍が「Enemy Boat」と呼んで…

1944年6月6日

僕の本棚にあるDVDは少ないが、その一つが「The Longest Day」である。言うまでもなく、第二次世界大戦のハイライト、ノルマンディ上陸作戦を描いたものだ。後に「プライベート・ライアン」でディーテールが描かれるが、本編の壮大なスケールには及ばない様…

80万年後の格差社会

本書は以前「モロー博士の島」を紹介したSF創世記の巨人H・G・ウェルズの初期の短編集。作者の諸作は以後のSF作家たちに偉大な影響を与え、その基本的なアイデアはすべて彼の著作にあるとすら言われている。ただ作者はSF専門の作家だったわけではなく、政治活…

失業者ゆえの計画殺人

ドナルド・E・ウェストレイクという作家が本当に作風の広い人で、ペンネームも複数を使い分けている。ざっと見ただけでも、 ・ウェストレイク名義のハードボイルド 「やとわれた男」他 ・リチャード・スターク名義の悪党もの 「悪党パーカー」シリーズ ・タッ…

ウクライナから見たロシア

昨日・一昨日と、トランプ&プーチンの力の源泉や関係性について紹介してきた。本書はそのプーチンの「正体」を暴きたいと、ウクライナ人の研究者グレンコ・アンドリー氏が日本語(!)で書き下ろしたもの。冒頭日本人だけではないが、プーチンへの幻想を持…

無自覚の工作員

昨日トランプ&プーチンという2人の大統領が、キリスト教福音派やロシア正教からは理想的な首班であるとする書を紹介した。ではこの2人はどう繋がっているのだろうか?公式には2017年のヘルシンキでのG20会合が初対面だとなっているが、2013年にはミスユニ…

神が遣わした2人の大統領

何度か僕の苦手なものとして「お金」を挙げているが、実はもっと苦手なものがある。それが「宗教」。産まれた家は仏教徒、中でも禅宗なのだが、親戚の葬儀や法事くらいしか仏教徒だとの意識になったことは無い。仏教の教義もまるきり分からないが、もっと困…