新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

変格ミステリー

逆説とトリックの小箱

ギルバート・キース・チェスタトンはイギリスの作家、詩人、批評家、随筆家である。1905年ころ長編ミステリー「木曜の男」を発表しているが、推理作家としての地歩を築いたのは「ブラウン神父」という、小柄でコウモリ傘に帽子とマント、丸顔であどけない神…

夜の蝶が乗った玉の輿

ミステリーの翻訳や評論をしている人が自分でもミステリーを書くというのは、珍しいことではない。以前ハードボイルド小説に詳しい小鷹信光の「探偵物語」を紹介したが、舞台は日本、登場人物は日本人になっていても、テイストはすっかりアメリカンハードボ…

新訳は読みやすい

新潮文庫版の「813」を読んで、ルパンものの最高傑作と言われるこの作品にさほどの評価ができなかったことは、以前に紹介した。その中で、フランス文学界の重鎮の方の翻訳だったのも評価できない一因ではないかと述べた。しかし、重鎮の方に忖度して新訳…

5人のコンサルタント

富裕な奥さんと結婚したため、一時は医学の道を歩みながらも医師になることなく金銭的には不自由なく暮らす中年男ティム。彼の悩みは、奥さんの不倫とその相手が親友のブレイゼスであること。一方世間のニュース、特に殺人のニュースを見ても組織犯罪による…

18個のおもちゃ

奇術とミステリーには共通点が多い。いずれも聴衆や読者をあっと言わせてナンボの世界だし、いたずら心がないと上手くいかない。クレイトン・ロースンなどは奇術師を探偵役にした、読者を驚かせる作品を多く残した。日本のロースンと言えば、泡坂妻夫以外に…

解決しない探偵

ABCショップというカフェの片隅で、ミルクをすすりチーズケーキをほおばる老人。カカシのように痩せた男だが丸眼鏡の奥の眼光は鋭く、興奮してくると少し震える指で紐に結び目をつくったりほどいたりする。「イブニングオブザーヴァー紙」の記者ポリー・バー…

本格手法の変格ミステリー

パトリシア・マガーという作家は、あまり日本では知られていないかもしれないが、ユニークなミステリーを残した。1946年の「被害者を探せ」に始まり、初期の5作はおおよそ1年毎に発表されたが、各々独自の趣向を凝らしている。名作と言われるのは第二作「…

本格ミステリーからSFまで

ミステリー界に短編の名手と言われる作家は多いが、本書の著者フレドリック・ブラウンはそのジャンルの広さが際立っている。膨大な作品で知られるアイザック・アシモフも本格ミステリー、サスペンスもの、SFと書き分けるが、ブラウンもこれに匹敵する。 本…

マンハッタン、1944

有名なサスペンス作家であるウィリアム・アイリッシュ(本名コーネル・ウールリッチ)の作品中、ベスト3と言われるのが「幻の女」「黒衣の花嫁」「暁の死線」であることは、以前にも紹介した。 本書は高校生の時に読んで、あまり「名作」とは思えなかった。…

最初で最後のミステリー

三谷幸喜という人は才人である。何年か前「清須会議」という映画を見たが、あれだけの個性的な俳優/女優を有名な歴史上の人物にあてはめ、新解釈も加えながら組み立てたストーリーは出色だった。特に鈴木京香演じるお市の方の恐ろしさが印象深い。 彼が20年…

最初に読んだ倒叙ミステリ

ミステリの一番の売りは "Who done it?" だと思う。不可能犯罪を暴く "How done it?" などもあるが、やはり「犯人はお前だ」というのが王道だ。巨匠エラリー・クイーンはデビュー2作目 "French Powder Mystery" で最後の1行で犯人の名前を言うというアクロ…

一人四役

わたしが語るのは殺人事件の物語です。 わたしはその事件の探偵です。 そして証人です。 また被害者です。 さらに犯人です。 フランスミステリーの鬼才、セバスチャン・ジャプリゾ「シンデレラの罠」のキャッチコピーである。訳者は、作者は一人四役を意図し…

奇術師の、奇術師による、奇術師のための

泡坂妻夫(本名厚川昌男のアナグラム)は、1976年本書で長編ミステリーのデビューを果たし、その後20編弱の長編小説と20冊ほどの短編集を残した。この人は作家デビュー以前から奇術の世界では有名な人である。奇術とミステリーには多くの共通項目があって、 …