新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

軍事スリラー

Mission Impossible,1940

本書の作者トミー・スティールはこれがデビュー作・・・なのだが、本書発表(1983年)以前から有名人である。本業(?)はロックミュージシャン、「Rock with the Caveman」などのヒット曲で知られ、映画や舞台でも活躍する俳優でもある。 シェークスピア劇も得…

壮大な架空戦記

佐藤大輔という人はもともとゲームデザイナーだった。日本の短いシミュレーション・ウォーゲーム全盛期に、やりたい放題といえるくらい派手な作品を発表した「アドテクノス」の一員である。代表作は「Red Sun & Black Cross」のシリーズで、僕も続編である「…

ロシアの「オプ・センター」

トム・クランシーが精神科医であるスティーブ・ピチェニックと共著した「オプ・センター」シリーズ、第六作の「国連制圧」が割と面白かったので、さかのぼって第二作である本書を読んでみた。 国際紛争の中で緊急事態を察知するハイテク情報網を持ち、強制排…

サイバー戦争を予言したシリーズ

軍事スリラーものの大家トム・クランシーは、生涯で何度も共著者を変えている。1998年頃から、近未来スリラーの新しいシリーズ「Power Plays」を始めたが、この時の共著者がマーティン・グリーンバーグ。同名のSF評論家がいて、Wikiでもなかなか正体がわから…

小説の形をした教科書

柘植久慶という作家には多くの軍事スリラーの著書があって、「前進か死か」全6冊などは本当にリアルな作品で何度も読んだ。一方ビジネス書やサバイバル書も多く、「パーフェクトコマンダー」という前線指揮官の心得を書いた本は、以前紹介している。 https:…

人道主義者との闘い

本書はトム・クランシーとスティーヴ・ピチェニックの共著による、米国の危機管理組織「オプ・センター」ものの第6作。舞台はニューヨークなのだが、アメリカであってアメリカでないところ「国連」である。 今回の悪役は、5人のテロリスト。ブルガリア人傭…

大統領!Situationです。

トム・クランシーは生涯で何人もの共著者を使った。戦略・作戦級ゲームデザイナーのラリー・ボンドに始まり、最後に戦術・戦闘級のチャンピオンであるマーク・グリーニーと組んだ。クランシーの死後も、グリーニー流の軍事スリラーを書き続けている。クラン…

顔認証プログラムが暗殺者

作者のデイヴィッド・メイスンは、英国の近衛連隊の出身。特殊部隊にいたがどうかは分からないが、ドーハ戦争で武勲を立てて除隊、オックスフォードシャーの州長官も務めた。本書はデビュー作「バビロンの影~特殊部隊の狼たち」に続く第二作である。デビュ…

戦車一両、敵中を行く

冒険小説の雄ギャビン・ライアルは最初レギュラーの主人公を持たず単発ものを書いていたが、元SAS少佐ハリー・マクシムを主人公にしたシリーズものにも手を染めた。これらがなかなか面白い。マクシム少佐は妻のジェニファーをテロで失い、半ばヌケガラと…

旧式兵器の競演

「超音速漂流」でデビューしたトマス・ブロックは、米国大手航空会社のパイロットである。現職のうちに作家デビューを果たした。職業柄、民間航空機のハイジャックものが得意なのだが、本書(第三作)では本格的に軍事知識を盛り込んで、大規模犯罪とこれに…

それぞれの死出の旅

キューバ危機のころ、僕はまだ小学生だった。「シートン動物記」がお気に入りの本で、核戦争がどういうものかの知識は無かった。米ソ両国が核のボタンを握りしめて「相互確証破壊: Mutual Assured Destruction(MAD)」へのチキンレースをしていたことは、ず…

米中対立の見事な予測

現在の戦略兵器としては、国際関係上ほぼ使えない戦略核兵器を除けば、空母機動部隊が一番に挙げられるだろう。1941年末、南雲機動部隊が真珠湾で旧式戦艦7隻を撃沈破して以降、その地位は揺らいでいない。しかしいつかは空母機動部隊を破る「戦略兵器」が…

ウクライナ、1993

1987年「オールド・ドッグ出撃せよ」でデビューしたデイル・ブラウンは、もともと米空軍のテストパイロット。本書にも出てくるF-111の多くのバリエーションに航法士として搭乗経験がある。デビュー作はその経験を活かしたもので、その精緻な航空機の運用描写…

ISIS+大量破壊兵器の目標は?

作者のジョエル・C・ローゼンバーグは、「ニューヨーク・タイムズ」のベストセラー作家だと紹介文にある。著作の出版総計は300万部をこえているそうだが、邦訳は本書が最初とのこと。2015年発表の本書は、4年後の今でも現在進行形のシリア内戦とその周辺国…

高速スパイ機パイロットを守れ

スカンジナビア半島の北端、そこは完全に北極圏で日本人には馴染みのないところだ。ここが歴史に登場するのは、第二次世界大戦中ナチスドイツと戦うソ連へ連合国が物資援助をする船団を送った時である。輸送船にはM4シャーマンやM3ハーフトラック、小火器、…

民主党政権、2020の悲劇

本書はいわゆる「架空戦記」とは一線を画した、ヴィヴィッドな政治ドラマである。著者の中村秀樹は、潜水艦「あらしお」艦長など主に潜水艦畑を歩んだ海上自衛官(最終階級は二佐)、「本当の潜水艦の戦い方」などの著書がある。これは入門編の軍事的な解説…

トム・クランシーの遺作

戦闘級のチャンピオンであるマーク・グリーニーをパートナーに、よりリアルな国際紛争小説を発表してきたトム・クランシーは、2013年に急逝した。66歳だった。事実上の遺作となったのが、本編「米中開戦」である。ただ、実際に両国が宣戦布告しての全面戦争…

仮装強襲コマンド母艦(後編)

今回アマンダが指揮することになったのは、仮想強襲コマンド母艦「ギャラクシー・シェナンドー」号。戦艦アイオワに匹敵する66,000トンの排水量を持ち、かろうじて(拡張前の)パナマ運河を通過することができる。外観はバラ積貨物船に見えるが、内部には26…

仮装強襲コマンド母艦(前編)

J・H・コッブのアマンダ・ギャレットシリーズも5作目になった。2005年発表の本書以後、新しい作品はみかけていないのが残念である。4作目「攻撃目標を殲滅せよ」で、好敵手であるインドネシアの大富豪ハーコナンと知りあい、愛し合い、そして戦ったアマ…

圧倒的な1,000ページ(後編)

欧州委員会、各国政府、電力会社などが右往左往して実態もつかめない時、スマートメーターに異常なコードを発見した元ハッカーの中年男ピエーロ・マンツァーノはこの停電がサイバー攻撃によるものだと気づく。しかし政府への反対運動での逮捕歴もあるマンツ…

圧倒的な1,000ページ(前編)

以前「ゼロ」を紹介した、オーストリアの作家マルク・エルスベルグのデビュー作が本書。正面から重要インフラに対してのサイバー攻撃を描いた作品で、1,000ページを長く感じさせない迫力がある。インフラへのサイバー攻撃というと映画「ダイハード4.0」が有…

朝鮮半島、2003(後編)

生き残った北の特殊部隊員チョン・ヒチョル上尉は、南に潜入したかつての恋人リ・ガウンの案内でソウルにたどり着く。この過程で「南の先輩」であるガウンが教え諭すことが面白い。 ・北で一般に言われていること違い、社会主義と資本主義のどちらがいいかは…

朝鮮半島、2003(前編)

本書の作者ファン・セヨンは、韓国気鋭のミステリー作家と解説にある。いわゆる386世代(30代で、80年代に大学に入学、60年代生まれ)である。最近は聞かれないが、本書発表当時2003年には、韓国の「新人類」的な扱われ方をしている。ちなみに386の意味はも…

インテリジェント海賊との闘い(後編)

この種のシリーズで難しいのは、主人公(アマンダ&カニンガム)により大きく困難なミッションを与え続けないといけないという宿命にある。また主人公も昇進するので、立場が変わってしまうのだ。例えば(オリジナルの)「Star Treck」では、カーク艦長はず…

インテリジェント海賊との闘い(前編)

本書は、J・H・コッブのアマンダ・ギャレットシリーズ第四作である。第一作でステルス駆逐艦DDG-79「カニンガム」艦長としてアルゼンチン海空軍を一手に引き受けて戦った彼女は、第二作で揚子江を遡上するという荒業を見せ核戦争の危機を防いだ。この戦闘…

第二次朝鮮戦争、1989(後編)

いかに100万人の陸軍や10万人の特殊部隊を持とうとも、米韓軍も60万人規模であり、海空戦力では比較にならないほど戦力差が大きい。だから北朝鮮軍の南進にはかなりの好条件が整わなくてはならない。作者のラリー・ボンドもよく心得ていて、かの国の指導者に…

第二次朝鮮戦争、1989(前編)

「レッドオクトーバーを追え」「レッドストーム・ライジング」の2作で、トム・クランシーの重要な協力者を務めた元海軍の分析官でゲーマーのラリー・ボンドが、自ら執筆したのが本書である。北大西洋での潜水艦追撃戦から西ヨーロッパでの大規模戦闘にスケ…

戦隊指令、アマンダ・ギャレット

「現代のホーンブロワー」アマンダ・ギャレット、三度目の登場である。アルゼンチン空・海軍を単身引き受けて戦い、中国軍の核攻撃を阻止するため長江を遡上したステルス艦「カニンガム」は、中国軍との戦闘で傷つき兵装強化の改装も含めてドック入りしてい…

中台もし戦わば

21世紀初頭、民主化勢力の蜂起によって内戦が拡大した中国に対して、民主化勢力と呼応した台湾軍が本土に逆上陸するというIFを描いたのがこれ。以前紹介した「ステルス駆逐艦カニガム」の第二作である。前作で単艦でアルゼンチン軍のほとんど全てを相手取る…

「ズムウォルト」の目指した戦い

アメリカ海軍の新鋭駆逐艦ズムウオルト級のネームシップ「ズムウオルト」が、いよいよ就役して3年になるが、相変わらず「初期不良」のせいか母港をはなれられないようだ。排水量16,000トンというのは、1世紀前の基準では「戦艦」にあたる。事実上最初のス…