新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

エスメラルダという街

ハードボイルドの雄レイモンド・チャンドラーは、長編を7作しか残さなかった。1958年発表の本書が、その最後の作品。代表作「長いお別れ」を発表後、作者は4年間沈黙していた。そして本書発表後に亡くなっている。実は「プードルスプリングス物語」という…

2,000年間「悪魔」を追って

エドワード・D・ホックは膨大な短編ミステリーを書いた。以前怪盗ニック・ヴェルヴェットのシリーズを紹介しているが、彼は依頼を受ければなんでも盗むのだが「価値のないもの」に限るという変わったビジネススタイルを貫いている。盗むのは例えば、古新聞・…

相性が全てを決める

先月紹介した吉田俊雄の戦記シリーズ、「良い参謀、良くない参謀」に続き、指揮官と参謀の組み合わせや相性について触れたのが本書である。参謀は、職位が低くても強大な権力を持つことがある。俗に「(指揮官の)虎の威を借りる狐」と言われたり、艦隊その…

ロシアでの破壊工作

作者の水木楊は、戦前の上海に生まれた元日経記者。国際政治ミステリー「1999年、日本再占領」で作家デビューしている。本書は歴史ドキュメンタリーで、日露戦争前から終結までの、情報将校明石元次郎大佐の活動を描いたものだ。 日露戦争も、ある意味無謀な…

道北・道東防衛戦

昨年「尖閣諸島沖海戦」を紹介した、中村茂樹のリアルシミュレーションの陸戦版が本書。作者は海上自衛隊で潜水艦長から艦隊運用、情報分析、幹部教育、戦史などの部署を経験した人。今回の敵国はロシアである。 現実に原油安やコロナ禍で大変苦しいことにな…

推理作家って大変なんだ

以前「推理日記」というミステリー書評を紹介した、作家佐野洋。「眼光紙背に徹す」と評された、当代一流の読み手である。古来の「ノックスの十戒」」などではないが、作者が読者に仕掛けるアンフェアなことを厳しく戒めている。ストーリー展開に関わるミス…

メガバンク勤務経験で得たもの

今を時めくベストセラー作家池井戸潤のデビューがミステリーだったことは、つい最近知った。1998年「果つる底なき」で、江戸川乱歩賞を受賞している。慶應義塾大学卒、三菱銀行勤務を経ての作家デビューだった。デビューー作含め有名な半沢直樹シリーズなど…

おりんでございやす

本書は横溝正史の作品の中でも、映画化されてマニア以外の人にも知られた作品である。舞台は例によって岡山県、特に本作では岡山弁が目立つ。岡山方面の言葉には、尾張の方言に似た表現がある。ひょっとすると昔は近畿地方を中心にこの種の方言が広く普及し…

古書の世界の連作大河完結

2013年1月から、フジテレビの「月9枠」で放映されたTVドラマ「ビブリア古書堂の事件手帳」は、歴代最低の視聴率で大コケに終わった。380万部もうれた原作に、当時の人気若手女優剛力彩芽を起用しながら失敗作に終わっている。 全7巻のこのシリーズ、僕…

イタリア重罪院の裁判

「ペリー・メイスンもの」などを読み始めて、改めて法廷ものの面白さを思い出した。他の米国のものや日本の法廷ものの読んだが、本書(2002年発表)のようなイタリアの法廷ものは初めてだ。1月にサルディニア島の弁護士を主人公にした「弁護士はぶらりと推…

すかんぴんだが口八丁

以前「コルト拳銃の謎」を紹介した、フランク・グルーバーのジョニー&サムが登場するシリーズの第一作が本書。ボディビルの書籍を売るテキ屋の二人、ジョニー・フレッチャーは口八丁のセールスマン、サム・クラッグはボディビルの生きた見本である。 本書の…

「公平・中立・簡素」が大原則だが

昨年の消費増税によって不況が来たという人たちは、税率をもとに戻せと言うし消費是5%で野党共闘をしようという声も上がった。そして今「コロナ禍」の緊急経済対策として、即座に消費税の(時限的)廃止を言う人たちも出てきた。 主旨は理解しているが、例…

Mission Impossible,1940

本書の作者トミー・スティールはこれがデビュー作・・・なのだが、本書発表(1983年)以前から有名人である。本業(?)はロックミュージシャン、「Rock with the Caveman」などのヒット曲で知られ、映画や舞台でも活躍する俳優でもある。 シェークスピア劇も得…

伸介・美保の欧州行

本書は津村秀介の長編50作目、レギュラー探偵浦上伸介と前野美保が容疑者のアリバイ崩しに挑むいつものお話しだ。ただちょっと違うのは、殺人事件があったときには容疑者は欧州出張をしていたこと。1件の殺人は成田発ローマ行のJAL便の中、もう1件はANA便…

プロゴルファー夫妻の息子

本書はスポーツエージェントで「MBスポーツレップス」の経営者であるマイロン・ボライターが主人公の第四作。アメリカンフットボール、テニス、バスケットボールの世界を舞台にした三作に続き、本書ではゴルフの世界が描かれる。 最もマイロンはゴルフをスポ…

翻訳者の想いと力

以前「特攻艇基地を破壊せよ」や「アドリア海襲撃指令」を紹介したダグラス・リーマンの、やはり第二次世界大戦ものが本書(1985年発表)。この2冊が「海の男の闘い」を前面に押し出したもので、そこそこ気に入ったので「三匹目のどじょう・・・」と思って読み…

カリフォルニア州の変な判例

高校生だった一時期、アール・スタンレー・ガードナーの「ペリー・メイスンもの」は何冊か読んだ。「どもりの主教」と「義眼殺人事件」が傑作と言われていたが、そのほかの作品もいつも楽しめたものだ。後半の100ページほどは、おきまりの法廷シーン。予審の…

現代スパイスリラーの原点

次の「007シリーズ」では、女性の007が誕生するという話を聞いた。ジェームス・ボンド役はショーン・コネリーから何代にもわたって「セクシーな男優」が務めてきたことを考えて、ダイバーシティも極まれりと思った。 007ものの長編ミステリーを作者イアン・…

近代米国のパズラー、デビュー

W・L・デアンドリアは1978年本書でデビューし、1996年に44歳の若さで亡くなるまでに約20の長編小説を残した。邦訳されたものはその半分もないようで、僕自身「ホッグ連続殺人」と「五時の稲妻」の2編しか読んでいない。エラリー・クイーンを彷彿とさせる本…

脇役としての狩矢警部

中学生の頃にエラリー・クイーンに出会ってから、高校在学中に500冊程度は読破したと威張っている僕だが、実は山村美紗の作品を読んだことが無かった。TVの2時間ドラマの原作が多くあったことは知っているし、少しは見た記憶もあるのだが、小説としての作…

司法と医療の対立

以前「ジェネラル・ルージュの凱旋」を紹介した海堂尊の、同じ「田口・白鳥もの」の比較的新しい作品が本書。「ジェネラル・・・」が救急救命医療の現実を告発するような医療ミステリーとしては「医療」に重心があるものだったが、本書は「ミステリー」の方に重…

観てから読むことになり

在宅勤務が続いていて、本の読み方も変わってきた。これまで半分以上のページは往復の新幹線車内か、近距離・遠距離を問わず移動中に読んでいる。もちろん欧米便のフライトの中ということもある。ところが移動時間というのがほとんど無くなってしまし、今はT…

遥かなり欧州大陸

「コロナ禍」のおかげで、世界中の国際線のフライトは90%近く運休・減便になってしまった。海外旅行が大好きな僕たち夫婦も、1月のローマ旅行以降海外に出掛けることができない。僕らは結婚してしばらくは旅行会社のツアーを利用していたのだが、慣れてく…

信用情報機関の信用

僕はコンピュータサイエンスを学んでコンピュータを作る仕事をしていたのだが、30歳そこそこでコンピュータを使ってもらう場面をどうやって増やすかということに興味を持った。当時デジタル化が遅れていた分野(例:農業・林業・行政)に働きかける方法もあ…

モンマルトルの連続殺人

フランスミステリー界の重鎮ジョルジュ・シムノンは、ベルギー生まれ。故郷のリェージュはフランス語に近いワロン語を話すエリアにあり、第二次世界大戦前から本格ミステリーをフランス語で書ける数少ない作家のひとりである。有名なメグレ警部(のち警視)…

気分はヒトラー?スターリン?

「コロナ禍」が欧州を席巻していて、「第二次欧州大戦以来の悲劇だ」と現地メディアが伝えている。その戦争は80年前に欧州全土をまきこんで始まったのだが、原因は第一次欧州大戦の後処理のまずさと、米国発の大恐慌だった。欧州全体が不況で失業者があふれ…

不可能犯罪アンソロジー

子供のころに読んでいたのは、主に創元推理文庫。ハヤカワ・ポケットミステリーより値段が手ごろだったし、ポケミスの2段組みは読みにくかった。それがいつの間にかハヤカワもミステリー文庫を出すようになって、選択肢が増えた僕は喜んだものだ。この文庫…

子供が5人だけの集落

イギリスの一番北の端、すでの北極圏にあるシェットランド諸島を舞台にしたアン・クリーヴスの4部作は、その叙情的な描写が美しい独特の作品群である。4部作の第一作「大鴉の啼く冬」が2006年に公表されたが、クリーヴス自身はその時点で作家キャリアは20…

マイロン・ボライター自身の事件

本書はハーラン・コーベンのマイロン・ボライターものの第三作。スポーツエージェントであるマイロンとその仲間たちの活躍を描いた作品群で、これまでフットボールとテニスの世界での事件を扱っている。いずれもプロの契約金やCM出演料、果ては裏金まで、膨…

「百合子劇場」のルーツ

連日「COVID-19」新規感染者の人数が都道府県別に報道されているが、北海道の記事を見ると、「北海道庁xx人、札幌市xx人」と個別に発表されていることが分かる。理由は感染者が札幌市に多いということではなく、札幌市が政令指定都市だからだと思う。15年近…