新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2021-02-01から1ヶ月間の記事一覧

双子のミステリー作家

エラリー・クイーンという作家は、実は同い年のいとこ同士二人の合作時のペンネームである。夫婦の合作なども例はあるが、親近者の合作の極めつけは、本書の作者ピーター・アントニーだろう。このペンネームは、双子の兄弟が合作するときに使うもの。そして…

Great Fire Wallの内側で

今月、中国という困った隣国の高まる脅威に対して、第二次日中戦争のシミュレーションまで(2冊も!)紹介した。実際に戦端が開かれてしまえば、一介の民間人である僕に出来ることは何もない。ただその前に、かの国のデジタル事情を勉強することは可能だ。…

軍人の官僚としての評価

真珠湾攻撃など一時期華々しい戦果を挙げたことから、帝国海軍については戦後に至っても国民の人気は高かった。その海軍を戦乱に巻き込んだのは陸軍ではないかという議論があり、帝国陸軍の評価は高くない。そんな陸軍に「良識派」などいたのかと思う人もい…

本格ミステリー黄金期の始まり

米国の本格ミステリーの時代は、本書(1926年発表)から始まったと僕は思う。英国ではクロフツ、クリスティがデビューしていたが、それほど大きなインパクトを読者に与えていたわけではない。それがS・S・ヴァン・ダインという作家の登場によって、黄金期が始ま…

タロットカードの意味

1934年発表の本書は、ジョン・ディクスン・カーのフェル博士ものの第三作。博士は「魔女の隠れ家」で登場し、続いて「帽子収集狂事件」も解決した。本書ではしばらく米国に出かけていて久々にロンドンに戻り、ハドリー捜査課長のところに顔を出したことで事…

11年前の安全保障論

本書の発表は2010年、日米両国で民主党政権で日本では菅(カン)総理、米国ではオバマ大統領の時代である。この時期、日米同盟は未曽有の危機にあった。前の鳩山総理が普天間問題を「最低でも県外」とのスタンスでオバマ大統領と交渉に当たり、「Trust me!」…

超マクロ経済学による説明

本書の著者水野和夫氏は、三菱UFJモルガンスタンレー証券のチーフエコノミストだった人。その後内閣官房審議官などされ、現在は日大教授。僕はマクロ経済学では、一番分かりやすい解説をしてくれる人だと思っている。本書も何気なく買ってきたのだが、読んで…

ヒンドゥークシの嵐

本書(2010年発表)は、元米国国家航空警備隊の機関士でアフガニスタンなどでC-5やC-130輸送機に乗り込んだ経験の長いトマス・W・ヤングがノンフィクション「The Speed of Heat」(これもアフガニスタンが舞台)に続いて発表した軍事スリラーである。飛行機…

死体置き場のキンジー

1986年発表の本書は、これまで「アリバイのA」「泥棒のB」を紹介した、スー・グラフトンの第三作。南カリフォルニアのサンタ・テレサに住む、女探偵キンジー・ミルホーン(わたし)のシリーズである。キンジーは32歳、離婚歴2回、元は警官だったが、拳銃…

女流作家の捕物帳

これまでに3大捕物帳(半七・銭形平次・人形佐七)を紹介してきたが、もちろんこれら全ては男性作家の手になるものだ。「むっつり右門」「若さま侍」に範囲を広げても、これは変わらない。しかし、女流作家平岩弓枝は「はやぶさ新八」シリーズを書いている…

千草検事最後の挨拶

本書(1989年発表)は、土屋隆夫の千草検事シリーズ最後の作品である。本書の解説にあるように、前作「盲目の鴉」から9年を経ての書き下ろし。「9年ぶりだから傑作とは限らないが、寡作は傑作の条件のひとつ」なのである。 本格ミステリーとして「小数点以…

追われるものの暮らし方

本書は「戦闘級のチャンピオン」マーク・グリーニーのグレイマン・シリーズの第四作。目立たない男グレイマンこと元CIAの工作員で暗殺者のコート・ジェントリイが主人公。前作でメキシコマフィアを打ち負かしたものの、故郷のアメリカには戻れなくなってしま…

闘ってみるまでは分からない

昨日、北村淳著「シミュレーション日本降伏」を紹介した。中国の軍備(質×量)の充実は著しく、現在の日本の安全保障戦略では尖閣諸島はもちろん、その先さえ危ないという警告の書だった。米国在住で軍事情報に詳しい筆者だから、兵器の比較について勉強にな…

日中戦争の戦略論

先日「兵法がわかれば中国がわかる」で、この困った隣国の行動様式を勉強した。習大人がかなり威勢のいいことを言っているし、新年早々中国海警局の艦船が尖閣沖に出没している。日中間で何かが起きるとしたら、この海域である公算は高い方だろう。2019年発…

「万世一系」の出発点

以前、日本の「最も名探偵らしい名探偵」として紹介した東大医学部教授神津恭介だが、作者の高木彬光は彼の路線から「白昼の死角」「破戒裁判」などリアルなミステリーへと転身した。恭介の天才ぶりは現在の事件ではなく「歴史探偵」としてのシリーズで生か…

人物から見た「堺屋史観」

「企業参謀」の大前研一より、勉強のためにたくさん読んだのが堺屋太一の著作。小説もそうだが、歴史ものの論説は独特な語り口があって好きだった。その日本歴史観が前編後編2冊で読めるのが本書。多くの歴史小説や論説がここにダイジェストされている。 日…

ニューヨーク湾岸地区1982

1994年発表の本書は、エド・ディーのデビュー作。ニューヨーク市警本部組織犯罪部の2人の刑事が活躍する、「刑事ライアン&グレゴリー」シリーズの第一作でもある。作者自身この組織犯罪部で20年勤務したということで、その活動や相手方となる犯罪組織の細…

トレントンの貧困街

1994年発表の本書は、ロマンス小説家として地歩を築いていたジャネット・イヴァノビッチが初めて書いたミステリー。英国推理作家協会から当該年の最優秀処女長編賞に輝いた作品である。舞台となったのはニュージャージー州の州都トレントン、ニュージャージ…

リュー・アーチャー探偵登場

以前「別れの顔」などを紹介した、正統派ハードボイルド作家ロス・マクドナルド。1944年にエスピオナージ「暗いトンネル」でデビューしたが、ミステリー界に足跡を残したのは本書(1949年発表)に始まる、私立探偵リュー・アーチャーものによってである。文…

自分史執筆講座の惨劇

本書(1993年発表)は、ジル・チャーチルの「Domestic Mystery」ものの第三作。「ゴミと罰」で登場した主婦探偵ジェーンの素性が、本書で少し詳しく語られる。というのも、ジェーンの実母セシリー・グラント夫人が娘のところにやってくるのだ。夫(ジェーン…

寝台特急「さくら」のアリバイ

本書(1998年発表)も、津村秀介のアリバイ崩しもの。昨年、比較的初期の作品として「寝台特急18時間56分の死角」を紹介しているが、その時の舞台も「さくら」だった。 https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/09/13/000000 この時はルポライター浦上伸…

もう一国、困った隣人

昨日中国の事を「困った隣人」と紹介したが、ある意味もっと困った隣人なのが韓国。徴用工問題・慰安婦問題など解決したかと思っていたら蒸し返されるし、どう考えても北朝鮮向けに必要ない空母の建造を計画したりする。空母など、どう見ても「仮想敵日本向…

困った隣人への対処を学ぶ

「COVID-19」の影響は最小限に食い止めたはずなのに、GDP2位の国とも思えぬ所業が目立つ中国。尖閣諸島沖での違法操業や台湾海峡で空母をデモンストレーションするなどは、まだかわいい方だ。昨年末には、全体的な国家安全保障の枠組みを構築するとして、重…

CIA分析官とその夫

2018年発表の本書はカレン・クリーブランドのデビュー作なのだが、出版前から映画化が決まっていて、出版されるや普段スパイスリラーに興味のない人たちまで購入したという話題作だ。作者は本書の主人公であるヴィヴィアン・ミラー(ヴィヴ)と同じCIA分析官…

混迷する第三次世界大戦

2002年発表の本書は、セラミック外装の高速原潜<チャレンジャー>が主人公のシリーズ第三作。2年近く前に、第一作「原潜迎撃」と第二作「深海の雷鳴」を紹介してから少し時間が経った。南アフリカとドイツが枢軸を組み、英米連合軍の主力艦隊を奇襲で壊滅…

「海の忍者」の死に方

太平洋戦争での潜水艦戦というと、帝国海軍の潜水艦の喪失について語る書籍は多いのだが、本書は太平洋戦線での連合軍潜水艦の最期についてまとめたものだ。輸送船ばかりでなく大戦後期では主力艦(戦艦金剛や重巡摩耶、新鋭装甲空母大鳳まで)を沈めた連合…

ドロミテ・アルプスの金塊

本書の作者ハモンド・イネスは、英国冒険小説の先駆者である。1937年に「ドッペルゲンガー」でデビュー、一貫してジョン・ブル魂にあふれた英国男の冒険譚を書き続けた。別名含めて40冊ほどの著書があり、「キャンベル谷の激闘」や「メリー・ディア号の難破…

「集団」と付いているゆえの混同

本書の発表は2014年、安倍政権が「集団的自衛権」を行使できるように閣議決定をした、その後の混乱期に発表されたものである。この決定は従来からの憲法解釈を変えるもので、護憲政党や一部メディアの猛反発を招いただけではなく、一流紙からTVのワイドショ…