新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「日本鬼子」の三光作戦

明日は僕の親父の誕生日、満94歳になる。親父は太平洋戦争末期、最後の初年兵として招集され、外地に派遣される前に終戦となって命拾いをした。わずか数ヵ月の兵隊さん生活だったが思うところは一杯あるようで、よく酒に酔うと当時の話をしていた。曰く、 ・…

ユトリロと大観の贋作

1985年発表の本書は、内田康夫初期の力作。白皙の名探偵、警視庁岡部警部が登場する。最初の事件は彼がまだ警視庁に入ったばかりのころ、新婚旅行から帰ったばかりの実業家夫婦が碑文谷の自宅で何者かに襲われ、夫(29歳)が刺殺された件。新妻の華子は美女…

小手先の変革ではなく

2017年発表の本書は、銀行をはじめとする金融機関のAI活用例を紹介し、2030年には銀行はどうなっているかを予測した書。背景にはデジタル化・AI活用で無くなると予想された職業のうち、半分近くが金融業だったことがある。この予測には当時日銀にいた友人が…

兵器技術者の試練

第二次世界大戦直前の緊迫化する国際情勢を背景に、それまでの「外套と短剣」式のエスピオナージをシリアスなものに変えたのがエリック・アンブラー。これまで、 ・第三作「あるスパイの墓碑銘」 ・第五作「ディミトリオスの棺」 を紹介している。今回、第六…

隠れた冒険小説の大家

コリン・フォーブズという作者の本を、手に取ったのは初めて。タンカーと救難ヘリのイラストに「黄金猿の年」というタイトル。創元推理文庫の中では「スリラー・サスペンス」に区分されていて、紹介文も裏表紙には無く目立たない本だ。 創元社の文庫は、あま…

片田舎のよそ者兄妹

本書(1943年発表)は、ひさびさのミス・マープルものである。1930年に「牧師館の殺人」でデビューした、セント・メアリ・ミード村の老嬢ジェーンは、12年を経て「書斎の死体」で二度目の探偵役を務める。 https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/07/15/…

パリ解放記念日8/25

1971年、本書によってフレデリック・フォーサイスはデビューし、それまでの軍事スリラーやスパイものを一気に時代遅れにした。作者はイギリス人だが、子供の頃から大陸に親しみドイツ語やフランス語も堪能、空軍パイロットを経てジャーナリストになり国際舞…

ピット&ジョルディーニョの活躍

以前オレゴン・ファイルやアイザック・ベルものなどを紹介したクライブ・カッスラーだが、その作家デビューは1973年の「海中密輸ルートを探れ」で、主人公は「国立海洋海中機関(NUMA)」のダーク・ピットとその仲間たちだった。上記の紹介記事で「ピットも…

「名機」の分かれる評価

このところ太平洋戦争を舞台にした懐かしい架空戦記を紹介しているが、それらの中で必ず登場するのが「零式艦上戦闘機」、通称「ゼロ戦」である。秦郁彦氏は大蔵省から読売新聞の嘱託となり、近代史(特に戦史)の研究者として多くの著作を発表している。本…

コミンテルン謀略が変えた歴史

本書は2015年に発表された、日中戦争裏面の謀略史である。著者の黒田紘一氏のことは、1943年長野県生まれとある以外全く分からない。Bingで検索しても、本書の著者であること以上の情報はない。ただし巻末に挙げられた相当数の参考文献を見ても、ある程度信…

100万人の命を懸けたゲーム

1972年発表の本書は、以前「アンドロメダ病原体」などを紹介した才人マイクル・クライトンが別名義(ジョン・ラング)で書いたサスペンススリラーである。作者は医師であるが本当に科学知識豊富な人で、本書にはメインフレーム時代のコンピュータをハッキン…

寿司にはシャルドネが合う・・・かな?

本書は2019年に発表された、「ゴーン事件」の内幕を日産という企業の歴史にまでさかのぼってまとめたもの。著者の井上久男氏は朝日新聞出身のフリージャーナリスト、自動車業界に詳しくゴーン被告にも何度か直接インタビューをしている。 2018年末の日産グロ…

バタフライ効果の太平洋戦争

昨日荒巻義雄の「紺碧の艦隊」シリーズを紹介したが、それに遅れること3年、SF作家田中光二が1993年~1998年の間に発表したのがこの「新・太平洋戦記シリーズ」である。作者は非常に多作で、300冊を優に超える作品群がある。NHKで教育番組のプロデューサ…

伊601潜「富嶽号」

本書は1990年から1996年まで、全20巻を数えた架空戦記「紺碧の艦隊」の1冊目である。作者の荒巻義雄はSF作家、1972年短篇集「白壁の文字は夕日に映える」でデビューし星雲賞日本短編賞を受賞している。伝奇ロマンを得意としていたが、1986年の「ニセコ要塞1…

悩める小説家たち

以前ドナルド・E・ウェストレイクのノンシリーズ「斧」を紹介した。リチャード・スターク名義で「悪党パーカー」シリーズを書くなど、広範な作風で知られる作者だが、「斧」はシリアスな中にも米国製造業の空洞化を風刺した傑作だった。そこで、同じスタイルで…

6組のカップルを襲うもの

本書(1945年発表)は以前「迷走パズル」と「俳優パズル」を紹介した、パトリック・クェンティンのピーター&アイリス夫妻のシリーズ第四作目。実は第三作「呪われた週末」は、別冊宝石に邦訳が掲載された後再版されたかどうかもわからず、入手できていない…

「丸太」即チ、材料ノ意味

「COVID-19」が「中国科学院武漢ウイルス研究所」から漏れ出たものかどうかは別にして、防疫研究のためにはウイルスを培養して各種の実験をする必要があることは確かだ。旧日本軍もそれをしていて、今中国に2ヵ所あるレベル4施設のうちの一つがあるハルピ…

在京6紙のスタンスと新聞の使命

本書(2014年発表)のサブタイトルにあるように、新聞各紙の報道が二極化している。その傾向は、7年経ってむしろ強まっている。朝日を筆頭に毎日・東京は政権に批判的、読売と産経は政権よりである。本書によると、日経も政権よりのスタンスだとある。当家…

インテリジェンスとは「神の視座」

本書は先月ノンフィクション「ニッポンFSXを撃て」を紹介したジャーナリスト作家手嶋龍一の手になる、本格的なインテリジェンス小説である。解説は、これも以前紹介した「日韓激突」で作者と対談した元外交官佐藤優氏が書いている。その解説によればインテリ…

8月のラスベガス

本書(2008年発表)も、CBS系の人気TVドラマ「CSI:科学捜査班」のノベライゼーション。本家ラスベガスを舞台にしたシリーズの(日本での出版では)5冊目にあたる。このシリーズ、通常の映画のノベライゼーションと違って、舞台や登場人物は踏襲するけれど…

長い休み「Stay Home」なら料理でも

さて「お盆休み」である。首都圏は全部「緊急事態」、ここ静岡県も「マンボウ」になっていて、遊び歩くわけにもいかない。しかしいい面を探すと、高級食材が安いことが挙げられよう。「COVID-19」禍の1年半、僕の料理の腕前は少し上がった。ステーキをレア…

九二式重機と歩いた山野

本書は中国戦線からビルマ(今のミャンマー)に転戦、終戦まで戦い抜いた石井兵長(最終階級伍長)の手記である。作者は青年学校教諭職にあったところを招集されたとのことだし、中学校時代の話も出てくる。英語の読める兵士として将校に重用されてもいると…

正論がどこまで浸透する?

秋の衆議院議員選挙に向けて、永田町はあわただしさを増している。正直「COVID-19」感染拡大より、選挙の方が忙しい状況だ。菅政権の「五輪強行」と「COVID-19」対策への批判が集まり、公明党はもちろん自民党内からも糾弾の動きが出てきた。こうなると普通…

習政権、二期目の課題

本書は以前「巨龍の苦闘」を紹介した現代中国の研究者津上俊哉氏の、2017年発表の著書。「巨龍の」から2年を経て、米国にはトランプ政権が誕生、「Brexit」も成り国際情勢が激変したこの時期、著者は3ヵ月ほど米国に滞在し米国の視点から中国を見たという…

隠密性が命の難しい艦種

よく架空戦記に「潜水空母」とか「海中戦艦」などという艦種が出てきて、(英米軍相手に)大活躍する物語がある。帝国海軍の巨大潜水艦「伊ー400」級は、確かに「晴嵐」攻撃機3機を搭載していて、十分な浮上時間がとれるならパナマ運河のような敵軍のアキレ…

身代金は5億ドル

スコットランド生まれの冒険作家アリステア・マクリーンは、「女王陛下のユリシーズ号」でデビュー、第二作の「ナヴァロンの要塞」が映画化されてヒットし有名になった。生涯で30作余りの冒険小説を書き、おおむね半分の作品が映画化されている。 1976年発表…

グルイズロフ大統領が恐れた男

以前「ロシアの核」を紹介したデイル・ブラウンの比較的新しい作品が本書(2004年発表)。作者はB-52の搭乗歴やF-111のテストパイロットだったことを売りに、1986年「オールドドッグ出撃せよ」で作家デビューしている。デビュー作のヒーローである米国空軍の…

小さくとも光る国

まだ20世紀だったころ、米ソ両大国の狭間にあった日本について、ある政治家が「小さくともキラリと光る国」でありたいと言った。当時の日本人はまだ日本が「小国」だと思っていたのだが、人口1億人を超えていたのだから当時から「大国」の素質はあったのだ…

事件関係者のさまざまな嘘

本書(1940年発表)は女王アガサ・クリスティーの「ポワロもの」の1冊。1920年「スタイルズ荘の怪事件」でデビューした英語の怪しいベルギー人探偵ポワロは、派手なトリックを暴きや意外な犯人を名指しして15年ばかりを過ごした。しかし1930年代後半から、…

ディダクションが出来るAI

世はまさにAIブーム、囲碁将棋の世界では「AI以前・以後」が公然と語られるし、ゴールドマン・サックスのトレーダーが600⇒2人になってしまったのもAIトレーダーの導入によってだ。巷間には「AIであなたの仕事が奪われる」的な書が溢れているし、欧州委員会…