新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

ヘンリー卿の銃器コレクション

第二次世界大戦直後の1946年に発表された本書は、アガサ・クリスティーのポワロものの1冊。「スタイルズ荘の怪事件」でデビューした作者と探偵のコンビは、26年間英国推理文壇に大きな足跡を残していた。しかし当初は「明るいスパイもの」が好きだった作者…

マニピュレーションの到達点

本書(1963年発表)は、エラリー・クイーン後期の作品。ライツヴィルものではなく、ニューヨークを舞台にクイーン父子とお馴染みのヴェリー部長刑事らが登場する。とてもニューヨークにあるとは思えない四角形の古い洋館である「ヨーク館」、四隅を対称形の…

白皙の名探偵岡部警部

昨日、巨匠内田康夫のデビュー作「死者の木霊」を紹介した。作者の膨大な作品に登場する名探偵浅見光彦は第三作の「後鳥羽伝説殺人事件」でデビューするが、初期のころにはデビュー作の長野県警竹村警部や、本書の主人公警視庁捜査一課の岡部警部が主役の座…

巨匠のデビュー作

内田康夫と言えば多くの人には「浅見光彦シリーズ」が有名でTVドラマ化がされたのだが、その他に「警視庁岡部警部シリーズ」や「信濃のコロンボ竹村岩男シリーズ」も5~6冊ほどある。総計140冊を超える著作があるのだが、そのデビュー作が本書。浅見光彦の…

「高3コース」の連載推理

僕が高校生の頃に「高×コース」という雑誌があり、高校生向けの月刊誌としてそこそこ売れていたと聞く。特に「高3コース」は大学受験の指南書のようなものだった。ちなみに浪人生向けの「蛍雪コース」という雑誌もあった。いずれも僕は買ったことはない。そ…

双子のミステリー作家

エラリー・クイーンという作家は、実は同い年のいとこ同士二人の合作時のペンネームである。夫婦の合作なども例はあるが、親近者の合作の極めつけは、本書の作者ピーター・アントニーだろう。このペンネームは、双子の兄弟が合作するときに使うもの。そして…

本格ミステリー黄金期の始まり

米国の本格ミステリーの時代は、本書(1926年発表)から始まったと僕は思う。英国ではクロフツ、クリスティがデビューしていたが、それほど大きなインパクトを読者に与えていたわけではない。それがS・S・ヴァン・ダインという作家の登場によって、黄金期が始ま…

タロットカードの意味

1934年発表の本書は、ジョン・ディクスン・カーのフェル博士ものの第三作。博士は「魔女の隠れ家」で登場し、続いて「帽子収集狂事件」も解決した。本書ではしばらく米国に出かけていて久々にロンドンに戻り、ハドリー捜査課長のところに顔を出したことで事…

千草検事最後の挨拶

本書(1989年発表)は、土屋隆夫の千草検事シリーズ最後の作品である。本書の解説にあるように、前作「盲目の鴉」から9年を経ての書き下ろし。「9年ぶりだから傑作とは限らないが、寡作は傑作の条件のひとつ」なのである。 本格ミステリーとして「小数点以…

寝台特急「さくら」のアリバイ

本書(1998年発表)も、津村秀介のアリバイ崩しもの。昨年、比較的初期の作品として「寝台特急18時間56分の死角」を紹介しているが、その時の舞台も「さくら」だった。 https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/09/13/000000 この時はルポライター浦上伸…

最初の「回想の殺人」もの

本書は(第二次世界大戦中の)1942年発表のポワロもの、後年アガサ・クリスティーが得意とした「回想の殺人」の最初となった作品である。作者と作中の探偵たちも年齢を重ねるうち、作者は探偵役に過去の事件を扱わせるようになる。「象は忘れない」「復讐の…

7世紀アイルランドの法廷弁護士

本書は以前長編「蜘蛛の巣」を紹介した、ピーター・トレメインの修道女フィデルマを探偵役としたシリーズの第一短編集。作者の本名はピーター・B・エリスといい、著名なケルト学者である。このシリーズのほかにもドラキュラを題材にしたホラー小説も書いている…

ウィムジー卿を巡る女性たち

本書は1930年発表の、ドロシー・L・セイヤーズのピーター・ウィムジー卿ものの第五作。前作「ベローナクラブの不愉快な事件」より、第三作の「不自然な死」によく似た毒殺ものである。古来女流ミステリー作家には、毒殺ものが多い。アガサ・クリスティも第一…

山男善人説を覆し

以前「高層の死角」「新幹線殺人事件」を紹介した森村誠一は、初期の6長編が第一期と言われている。今は「棟居刑事もの」などシリーズ作も多いのだが、このころは全て舞台の違う単発ものを発表していた。本書はその中の第五作にあたる。 ホテルマンを10年勤…

国名シリーズの終着駅は日本

本書は、エラリー・クイーンの国名シリーズ最終作品である。第9作の「スペイン岬の謎」のあと、突然「中途の家」と来て国名シリーズは中断する。ある評ではこの作品は「スゥエーデン燐寸の謎」とすべきだという話も合ったのだが。そして第11作は最初の題は…

スコットランドの寒いイブの夜

ミステリーの女王アガサ・クリスティは、英国の地に多くの後継女流作家を遺した。米国にも多くの女流ミステリー作家はいるのだが、社会派ミステリーだったりユーモアミステリーだったり、時にはハードボイルド/警察小説を得意とする人もいる。それに比べて…

東京・名古屋、1962

大家ではあるが、鮎川哲也の長編ミステリーは22編しかないのだそうだ。そのうち20編には、レギュラー探偵の鬼貫警部か星影龍三が登場する。作者はアリバイ崩しものを鬼貫警部・丹那刑事のコンビを主人公に、密室殺人など不可能犯罪ものを星影龍三を探偵役に…

雑誌「幻影城」が生んだもの

「幻影城」というのは江戸川乱歩のミステリー評論のタイトルなのだが、同じ名を冠したミステリー雑誌があった。1975年創刊というから僕は大学生になったばかり。一番ミステリー熱の高かったころではあるが、あまり日本の雑誌には興味も財布も向けなかった。…

キャンピオン氏の少年時代の記憶

マージェリー・アリンガムという女流作家は、英国ではアガサ・クリスティ、ドロシー・L・セイヤーズ、ナイオ・マーシュと並んで同時代の4大女流ミステリー作家として知られている。ただほとんど日本に紹介されていないマーシュほどではないにしても、日本の読…

エスピオナージ風のポワロもの

本書の発表は1940年、英国大陸派遣軍がダンケルクから命からがらの撤退をし、フランスは降伏してしまった年だ。チャーチル首相が「Their Finest Hour」と強がっても、英国が一番苦しかったころに違いない。皮肉なことだが、前年に代表作「そして誰もいなくな…

黄金の20年代の始まり

エドガー・アラン・ポーの創始になるミステリーというもののうち、本格探偵小説という分野が黄金時代を迎えたのは1920年代からだろう。アガサ・クリスティのデビューも今回紹介するフリーマン・ウィルズ・クロフツのデビューも1920年である。 1926年には、S…

連立方程式を解くように

本書は、寡作家ながら日本のミステリー作家の中で最も精緻な本格ものを残した土屋隆夫の代表作。登場するのは、千草検事とその仲間の刑事たちである。多分40年以上昔に単行本で読んでいるはずだが、手に入ったのは光文社が「新装版」として出版したもの。3…

隠れた本格ミステリー作家

ルーファス・キングという作家のことは、今まで全く知らなかった。デビュー作「Mystery De Lux」は1927年の発表というから、同じニューヨークを舞台にしたミステリー作家としては、かのエラリー・クイーンよりも先輩である。第三作「Murder by the Clock」(…

ライツヴィル最後の事件

本書は巨匠エラリー・クイーンの、最後から2番目の長編ミステリーである。以前最後の作品「心地よく秘密めいた場所」(1971年発表)を紹介しているが、本書はその1年前に発表されたものだ。 エラリーの活躍の舞台は、通常は父親は市警本部の警視をしている…

「漫才コンビ」再結成の裏で

以前「視聴率の殺人」「ホッグ連続殺人」「ピンク・エンジェル」を紹介した、W・L・デアンドリアの第四作が本書(1981年発表)。2作間をあけて、メディア大手<ネットワーク>の特別企画担当役員マット・コブが帰ってきた。<ネットワーク>はNBCやCBSをモデ…

ロンドン塔の闇と霧

本書(1933年発表)は、ディクスン・カー名義の名探偵ギデオン・フェル博士ものの第二作。前作はロンドンの北約200kmのチャターハムで起きた事件だったが、今回はロンドンのど真ん中、ロンドン塔での怪死事件にフェル博士と米国青年ランポール、ハドリー主任…

女王円熟期の傑作

本書の発表は1940年(1941年とする説もある)、まさに英国にとって一番苦しかった「There Finest Hour」のころだ。今にもヒトラーの軍隊が上陸してくるのではないかと思われた時期なのに、ミステリーの女王はこのような傑作を書き上げた。 1920年「スタイル…

親子探偵のモデル?

作者のマージェリー・アリンガムは、アガサ・クリスティーやドロシー・L・セイヤーズと並ぶ1920年代からの英国女流ミステリー作家。10歳代のころから冒険小説を書いていたということだが、長編ミステリーとしては1928年発表の本書がデビュー作。以後1968年に遺…

千草検事の哀しき解決

本書は土屋隆夫の「千草検事もの」の中でも名作とされ、日本のミステリーxx選を編纂してみれば恐らく選ばれると思われる。作者の数少ない作品(15長編)の中でも千草検事が登場するのは5作品しかない。 ・影の告発 ・赤の組曲 ・針の誘い ・盲目の鴉 ・不安…

機械仕掛けが一杯

本書は、エリザベス・フェラーズの「トビー&ジョージもの」の第二作。以前紹介した「その死者の名は」に次ぐもので、同じ1940年に発表されている。作者は英国ではクリスティの後継者のひとりと称賛されているのだが、日本では「猿来たりなば」と「私が見た…