新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格ミステリー

貴族探偵ホーン・フィッシャー

1922年発表の本書は「ブラウン神父シリーズ」などで知られたG・K・チェスタトンの短編集。ブラウン神父は逆説と皮肉に満ちたユニークな探偵で、シャーロック・ホームズのライヴァルたちに数えられることもあるのだが、全く次元の違った物語である。ホームズが…

5人の亀取二郎

本書は「本格の鬼」鮎川哲也の、鬼貫警部ものの長編。作者の長編は、以前発表したものに手を入れて再発表するものがいくつかあるが、これもその1編。1979年に「王」と題して「野生時代」に発表したものに加筆し、「王を探せ」と改題して1987年にカドカワノ…

青年医師ヴィンスの淡い恋

1989年発表の本書は、アランナ・ナイトの「ファロ警部補もの」の第三作。3日続けて紹介することになったのは、1980年代のエジンバラを舞台にした特色あるミステリーである上に、第二作「エジンバラの古い棺」の事件では主人公ファロ一家に歴史的な大事件が…

メアリー女王とダーンリー卿のカメオ

1989年発表の本書は、昨日「修道院の第二の殺人」を紹介した、アランナ・ナイトの「ファロ警部補もの」の第二作。実は3作買ってあって、前作が面白かったものだから連続して読むことにした。「軽快な犯人探し」という紹介文にも魅かれたし、19世紀のスコッ…

エジンバラ警察1890

1988年発表の本書は、ノンフィクションからゴシック・ロマンまで、幅広い作風で知られるアランナ・ナイトの歴史ミステリー。舞台はヴィクトリア朝時代のエジンバラ、スコットランドの首都でもあり独自の文化が栄えた街だ。作者の60作ほどの作品中、17作に登…

女の園の異邦人

1959年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ポワロもの」。イギリスの名門女子校で起きる連続殺人事件に、ポワロが巻き込まれる。味付けになっているのが、中東某国のクーデター。実際に中東の国で政変が起き、アリーという若い王子が飛行機で脱出しよ…

処刑人ジャック・ケッチの影

1930年発表の本書は、以前「夜歩く」を紹介したジョン・ディクスン・カーの「バンコラン判事もの」の第二作。後にフェル博士やメリヴェール卿を探偵役にして不可能犯罪ものでブレイクするが、この時点では「怪奇趣味のミステリー」程度にしか評価されていな…

僕の「聖典」短篇集

ミステリーの聖典といえば、多くの読者はシャーロック・ホームズものを挙げるだろう。しかし「Xの悲劇」でこの世界を知った僕には(短篇集としての)聖典は、1934年にまとめられた本書である。 まだ悲劇シリーズの作者バーナビー・ロスがクイーンの別名であ…

被害者は誰、そして犯人は?

1957年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ミス・マープルもの」。ミス・マープルはセント・メアリ・ミード村をあまり出ることはないのだが、本書ではロンドンの北西、パディントン駅から列車で数十分の距離にある、ブラッカムプトンでの事件に巻き込…

ワトソン役としての鮎川哲也

本書は「本格の鬼」鮎川哲也の、星影龍三を探偵役にした短編集。事情があって光文社と立風書房で初出された4編を、改めて光文社文庫に収めたものだ。作者はクロフツ流の重厚なアリバイ崩しものを鬼貫警部を探偵役に書き、密室ものなどは星影龍三を探偵役に…

クイーンが見いだしたキング

1958年発表の本書は、以前「不変の神の事件」を紹介した本格ミステリー作家ルーファス・キングの短編集。日本ではなじみの薄い作家なのだが、編集者エラリー・クイーンが、ミステリー短編集の歴史とも言うべき「クイーンの定員」を選んだうちに入っていて注…

沼沢地の町イーリーの事件記者

本書で2002年に文壇デビューしたジム・ケリーは、いくつかの新聞社を渡り歩いた記者。1987年にはその年の最優秀経済記者にも選ばれているが、1995年にノンフィイクション作家の妻と共にロンドンを離れ、本書の舞台ともなっているケンブリッジ州の小さな町イ…

4重のアリバイ工作

斎藤栄は東大将棋部出身のミステリー作家、以前「殺人の棋譜」「Nの悲劇」「奥の細道殺人事件」を紹介している。デビュー作「殺人の棋譜」では将棋タイトル戦の影で進む誘拐事件の捜査を描き、江戸川乱歩賞の候補になった。その勢いを駆って発表(1967年)…

奇妙な話が大好きな青年貴族

昨年までに、第五長編「毒を喰らわば」までを紹介してきたドロシー・L・セイヤーズの「ピーター・ウィムジー卿もの」。作者はクリケットが得意な青年貴族ピーター卿の登場するミステリーを、長編11、短編21発表している。本書には、5冊ある短編集の中から創元…

嘘も手掛かりのうちなんだ

1940年発表の本書は、以前「幽霊の2/3」や「家蠅とカナリア」を紹介したヘレン・マクロイの「心理探偵ベイジル・ウィリングもの」の1冊。作者は15作のウィリング博士を主人公としたミステリーを書いているが、翻訳出版された順番が発表順と異なり、すべてが…

ナス屋敷のお祭りの中で

1956年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ポワロもの」。学生時代に多くの本格ミステリーを読んだ僕だが、ヴアン・ダイン、クイーンはもちろんカー、クロフツなどの著作は手に入るものはみんな読んだものの、クリスティの特にポワロものには未読が多…

若いクイーン父子に会える

本書は、エラリー・クイーン後期の中短篇集。1954~65年の発表作品5編を収録している。3編が短めの中編、2編がショートショートだ。原題の"Queens Full"は、クイーンが一杯と、クイーンが3枚のフルハウスを掛けている。 中編のうちの2つは、作者が中期…

欧米ミステリーの紹介では?

以前、戦後ミステリーの大家のひとり高木彬光のデビュー作「刺青殺人事件」を紹介した。作者は戦前からのミステリーマニア、恐らく原語でヴァン・ダインやクイーン、クリスティらの諸作品を読んでいたのだろう。冶金工学の技術者で中島飛行機に勤めていたの…

学生寮の盗難事件から・・・

1955年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ポワロもの」。第二次世界大戦後10年近く経ち、ロンドンには世界中から留学生がやってきている。よく貴族の館に大陸からの使用人(執事・メイド・コック・運転手・庭師等)が雇われている「多国籍環境」での…

アバネシー家の7人兄妹

1953年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ポワロもの」。解説を大仕掛けが得意のミステリー作家折原一が書いていて、本書がクリスティ女史のベスト1だと評価している。ちなみに彼のベスト3は、 1)葬儀を終えて 2)ナイルに死す 3)白昼の悪魔 …

女王得意の連続毒殺事件

1953年発表の本書は、女王アガサ・クリスティーの「ミス・マープルもの」。投資信託会社社長の怪死事件を、ひょんなことから関わったミス・マープルが、ロンドン近郊の街ベイドン・ヒースに足を運んで解明する話。 ベイドン・ヒースの水松荘には、実業家のレ…

昭和22年夏、N村の事件

先日高木彬光のデビュー作「刺青殺人事件」を紹介したが、評判の高かったこの作品を抑えて<探偵作家クラブ賞>を受賞したのが本書「不連続殺人事件」である。作者の坂口安吾は、新文学の旗手ともいわれた文壇の大家。「白痴」などの作品で知られているが、…

探偵小説のすべてを盛り込み

戦後、日本は一種の探偵小説ブームになった。それまで世情を不安に落とすという軍部の意向で、発禁扱いだったのが解禁されたからだ。捕物帳などに逃げていた作者の復活もあったが、横溝正史や本書でデビューした高木彬光などの本格作家が登場したこともある…

ジョッシュとフィルの第二作

昨日「そして殺人の幕が上がる」を紹介した、ジェーン・デンティンガーの第二作が本書(1984年発表)。前作に引き続き、女優兼演出家のジョッシュ・オルークと、ニューヨーク市警部長刑事のフィル・ジェラルドが探偵役を務める。 二人は前作の事件で知り合い…

いっときだけの「家族」

1983年発表の本書は、ミステリーが好きで後にはミステリー専門の書店まで経営するという傾倒を見せた女優ジェーン・デンティンガーの作品。ニューヨーク・ブロードウェーの演劇界を舞台にアラサー女優ジョスリン・オルークが探偵役を務めるシリーズの第一作…

大酒のみで気弱な若者

これまで何冊も紹介しているが、本書も津村秀介の「浦上伸介もの」の未読の1冊。アリバイ崩しの名探偵浦上伸介は、作者の第五作「山陰殺人事件」でデビューし、本書(1985年発表)でレギュラーの地位を確立した。そんな記念すべき作品なのだが、長年手に入…

戦禍が隠した4つの事件

本書はミステリーの女王アガサ・クリスティの、1952年の作品。先月紹介した「予告殺人」も第二次世界大戦後の混乱期を背景にしたものだったが、本書ではエルキュール・ポワロが、大戦禍で見えなくなってしまった事件の背景を探る捜査に挑む。 マギンティ夫人…

幻の作家フィリップ・マクドナルド

「名のみ知られた名作」はミステリーを読み始めた中学生のころから、ある種の郷愁をそそるものだった。そのいくつかは今になって読めるようになったのだが、一方で中高生のころ読めたものが今手に入らないこともある。今回紹介するフィリップ・マクドナルド…

大戦の傷跡残る街の老猫

1950年発表の本書は、アガサ・クリスティーの「ミス・マープルもの」。老嬢探偵の代名詞ミス・マープルが登場するものとしては、4冊目の長編になる。第二次世界大戦中も、かわらぬペースでミステリーを発表し続けてきた作者だが、1950年ともなると戦後の混…

稀覯本の鑑定とブラックジャック

1983年発表の本書は、その年のアメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞を獲った作品。新人賞だから作者のウィル・ハリスは本書がデビュー作である。作者はカリフォルニア州にある政府系シンクタンク<ランド研究所>の研究者だと、解説にある。そんな作者がデビ…