新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

歴史・軍事史

時代小説が歪めた(?)歴史

昨日、歴史小説家中村彰彦著「幕末を読み直す」を紹介した。歴史小説と時代小説の比較(線引き?)はとても興味深かったが、タイトルにある「幕末」の扱いが思ったより少なかったので、本棚の奥から本書を引っ張り出してきた。2005年発表の書で、著者は東急…

歴史・歴史小説・時代小説

本書は、歴史作家中村彰彦のエッセイ集。作者は幕末会津藩の猛将佐川官兵衛の一代記「鬼官兵衛烈風録」でデビューした人。栃木県の出身で、近県のせいだろうか会津を舞台にした作品が多いという。 作者によれば、歴史小説を書くには多くの資料にあたり下調べ…

現代イタリア政界の妖怪

先月イタリア総選挙が行われ、かつてムッソリーニに傾倒していたという女性党首の極右政党が第一党になった。現代イタリア政界では複数党の連立が当たり前で、組閣に1~2ヵ月はかかるらしい。連立政権の一角に、元首相のベルルスコーニ氏の名前があった。2…

パスポートを取った後に

本書は、これまで3冊を紹介してきた21世紀研究会の「世界地図シリーズ」の1冊。国や民族が異なると、生活上の常識にも大きな乖離がある。特に前回紹介した「イスラーム」については、勉強させられることが多かった。 日本もグローバリズムが進んできて、居…

各国諜報機関の評価

本書は、何冊かインテリジェンス関係の著書を紹介している、元外務省分析官佐藤優氏の各国の諜報機関を分析した書。元原稿は、<EX大衆>に2008~2011年にかけて連載されたものだ。ゾルゲ事件など歴史上で諜報機関が関わったことの解説(解釈?)で始まり、…

歴史に学ぶ「戦闘教義」

本書は以前「三千年の海戦史」など戦略・戦術論を紹介している、松村劭元陸将補の歴史教本。冒頭「戦争学」が英米等では立派な学問として成立しているのに、日本では「考えたくないことは考えない」との風潮があって、軍事的な研究が貶められているとの嘆き…

帝国陸軍が遺したもの

本書は、ミャンマー在住で月刊情報誌「MYANMAR JAPON」を発行しているジャーナリスト永杉豊氏が、クーデター後の同国を2021年にレポートしたもの。この年の2月に、国軍総司令官ミン・アウン・フラインがクーデターを起こし、民主化政権の中心人物を拘束・投…

神学は外交の必要スキル

本書(2020年発表)は何冊かIntelligence関係の書籍を紹介している、元外務省分析官佐藤優氏の近著。Book-offで最初に手に取った動機は、現役時代南部ドイツのコンスタンツという街で1年の1/4を過ごした経験があったから。表題にあるヤン・フスなる人物は、…

Historical Cold Caseの集大成

本書は「日本博学倶楽部」の書き下ろし本だという。この団体は何かというと、歴史、暮らしの知恵、文化・情報など幅広い分野での調査・研究をする組織だとある。すでに「日本史未解決事件File」という著書(未入手)はあって、好評だったので世界史版を編纂…

歴史探偵、井沢元彦

「歴史探偵」と言われた、作家の半藤一利氏が亡くなって1年以上になる。氏は戦争体験もあり、護憲派の論客として多くの著書を遺した。主に昭和史の探求に尽くした人である。「歴史探偵」の跡を継ぐべき人は沢山いるが、その中で僕の世代で有名なのが井沢元…

この国はやはり平和

本書は2003年に「別冊宝石」が特集した記事を文庫化したもの。近代日本で起きたテロや暗殺事件、合計42件がコンパクトに写真入りで解説されている。1909年の伊藤博文暗殺事件に始まり、1995年の地下鉄サリン事件まで、80余年間を網羅している。2・26事件のよ…

いかに尊厳を持って死ぬか

光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「ドイツ海軍」である。本来大陸国家であるドイツにとって、海洋国家英国と海で張り合うのは難しい。それでも第一次世界大戦では英国の半分ほどの大艦隊を配備し、史上最大の艦隊戦といわれる「ユトランド沖海戦」を…

戦勝国英国の「変な兵器」

三野正洋という人の著書は多いが、中でも面白いのがこの「小失敗」シリーズ、日本は10倍以上の国力の米国に喧嘩を売るという大失敗以外にも失敗をしていう「日本軍の小失敗の研究」を2冊出版していて、それらは以前紹介した。 本書はその考えを連合国側にあ…

鉄底海峡1942.8

本書の著者森本忠夫氏は、太平洋戦争当時海軍航空隊に所属、戦後京都大学から東レに入社、ビジネス部門を歩いて取締役・経営研究所長にまでなった。後に龍谷大学教授も務め、「ニッポン商人赤い国を行く」「ソ連経済730日の幻想」「貧国強兵」などの著書があ…

684部隊の悲惨な暴動

1971年8月23日、極秘のうちに訓練を続けていた空軍684部隊の「兵士たち」が叛乱を起こし、教育兵の大半を殺害して脱走した。場所は仁川沖の無人島「実身島:シルミド」。彼らはここで、3年余りの期間、厳しい訓練を受けていた。正式な軍人でもなく記録には一…

第六艦隊首席参謀の回想

著者の井浦祥二郎元大佐は、海軍兵学校を卒業後一貫して潜水艦部隊に所属し、日米開戦時には中佐としてハワイ作戦に参加している。終戦時には第六艦隊首席参謀・大佐の地位にあった。第六艦隊とは潜水艦隊のことで、多くの船を失った帝国海軍の中でも最後ま…

海軍第343航空隊「剣」

太平洋戦争末期、圧倒的な質×量の米軍航空兵力に立ち向かえる帝国陸海軍戦力はあまりなかった。陸軍の隼や海軍の零戦では太刀打ちできない戦闘機や爆撃機を米国の技術と生産能力は量産していた。これらに対抗するため多くの試作機が作られたが、役に立ったも…

「シリアの友」たちの優柔不断さ

2017年発表の本書は、東京外国語大学教授の青山弘之氏(東アラブの政治・思想・歴史が専門)が、21世紀最大の人道危機と言われたシリア紛争を紹介したもの。日本ではこの地域のことを知ることができる書物は多くなく、今回はシリアという国について勉強させ…

陸軍の技術分野を一手に

光人社のNF文庫「兵器入門」シリーズ、今月は「工兵」である。兵棋演習のコマでは横になったEの文字が付いた分隊コマで、歩兵とスタックして近接突撃を掛けてくると脅威だったのを覚えている。いにしえの話、ローマの軍隊は決して強くなかったが、土木工事…

<バイオプレパラト>元幹部の証言

1999年発表の本書は、元ソ連の生物兵器製造組織<バイオプレパラト>の幹部だったカザフ人、ケン・アベリック(現地名カナジャン・アルベコフ)が、自らの経験を綴ったもの。著者はソ連崩壊時には陸軍大佐の地位にあり、ツラレミア(野兎病)菌を兵器化した…

専制・絶対王政に拘った結果

1917年の今日7月16日は、ロシアの最後の皇帝ニコライ二世とその家族が処刑された日である。ロシアは欧州の後進国と見られていたが、19世紀末から急激に国力を増し、大規模な陸軍だけではなく、巨大な海軍をも保有するに至った。しかし革命で民主主義を確立…

幻と消えた中欧連合構想

長期化するウクライナ紛争、その背景には一般の日本人が知らない「中欧」の歴史がある。本書は1994年出版の古いものだが、ポーランドと周辺の歴史に詳しい研究者広瀬佳一氏の著書。第一次世界大戦によって、オーストリア=ハンガリー二重帝国は崩壊、ポーラ…

次のリスクへの勉強材料?

もう11年も経ってしまったのかと思わせるが、本書は2011年3月11日の東日本大震災を受けて、企業がどのように動いたかのドキュメント。日経の記者を中心に63名が執筆者として名を連ね、震災半年後の7月に出版されたものである。なぜこの本を改めて読んだか…

口径統一に最後まで至らず

光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「小銃・拳銃・機関銃」である。帝国陸軍がどのような小火器を使っていたかを、写真や図面約400点とともに紹介したのが本書。陸軍が最初に採用した「村田式13年歩兵銃」は、口径11mmの単発銃だった。日露戦争では「30…

最後の預言者ムハンマドの影響力

本書は以前「地名」と「食」を紹介した、21世紀研究会の「世界地図シリーズ」の1冊。今回は「イスラーム」である。20世紀末の統計で、世界のイスラーム教徒は約12億人いるという。国別で多い順に、 1)インドネシア 1.8億人(88%) 2)パキスタン 1.3億…

新鋭戦車4両対生身の歩兵たち

本書はスティーブン・スピルバーグ監督の「Saving Private Ryan」の脚本を基にしたノーベライゼーション。「Battman」の原作や多くの映画のノーベライゼーションをした、作家マックス・A・コリンズの作品である。 ノルマンディ上陸作戦を描いた大作映画のひと…

ロンメル夫人の誕生日

昨年の今日、映画「The Longest Day」のDVDを紹介した。英米独三ヵ国のオールスターキャストが出演した、永遠の大作である。今回はその原作となった同名のドキュメンタリーを紹介したい。本書は1959年に発表されたが、それに先立つ3年間に作者のコーネリア…

超国家機関の200年

本書は以前「赤目のジャック」を紹介した歴史作家佐藤賢一が、2018年に発表した欧州史の一断面。「テンプル騎士団」という言葉は歴史教科書にも出てきたし、彼らの隠し財宝を巡るスリラーも読んだ記憶がある。どういう組織だったかについては、日本人の多く…

酒仙隊長、クロパトキン大将を走らす

昨日紹介した明石元次郎大佐(日露戦争当時)が「日本情報戦力の父」なら、本書の秋山好古少将(同)は「日本騎兵の父」と呼べるだろう。伊予松山藩の士族の出身で、弟の真之(東郷艦隊の参謀)が海のヒーローなら兄は陸のヒーローだった。 小柄で愛嬌のある…

日露戦争を決着させたもの

昨日5/27は「帝国海軍記念日」、1905年のこの日東郷艦隊が対馬沖でバルチック艦隊を撃破、ロシアの海軍力を壊滅させて日本海の制海権を握った日だった。海上では優位を得たとはいえ、陸上ではロシア軍は決して敗軍ではなかった。 奉天会戦は事実上の引き分け…