新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

歴史・軍事史

酒仙隊長、クロパトキン大将を走らす

昨日紹介した明石元次郎大佐(日露戦争当時)が「日本情報戦力の父」なら、本書の秋山好古少将(同)は「日本騎兵の父」と呼べるだろう。伊予松山藩の士族の出身で、弟の真之(東郷艦隊の参謀)が海のヒーローなら兄は陸のヒーローだった。 小柄で愛嬌のある…

日露戦争を決着させたもの

昨日5/27は「帝国海軍記念日」、1905年のこの日東郷艦隊が対馬沖でバルチック艦隊を撃破、ロシアの海軍力を壊滅させて日本海の制海権を握った日だった。海上では優位を得たとはいえ、陸上ではロシア軍は決して敗軍ではなかった。 奉天会戦は事実上の引き分け…

八八艦隊という夢

光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「戦艦」である。1940年代に海の主役を「空母機動部隊」に譲ってからも、海軍マニアに夢を抱かせる艦種といっていい。架空戦記作家横山信義は、多くの作品で「空母機動部隊が潰し合った後の戦艦同士の決戦」を描いて…

30年経って、変われたのか?

本書の発表は1993年、ほぼ30年前の書である。現役外務省官僚(駐ウズベキスタン大使)だった孫崎享氏が、日本外交の過去・現状・課題を述べたもの。ソ連崩壊・冷戦終了で、米国が「敵は日本の経済力」と思っていた時代。日本も先ごろ亡くなった石原慎太郎氏…

理系(土木工学)の歴史探偵

本書の著者竹村公太郎氏には、ある団体の役員をしていた時に知り合い、いろいろ教えていただいた。国交省の技術官僚(土木工学)で、河川局長まで務めた人。現行ダムの2倍の嵩上げ(貯水量は10倍以上になる)が持論だった。 政策勉強会などでご一緒し、新し…

ここにもあった分断国家

1ヵ月前、新疆ウイグル自治区での中国政府の残虐行為を告発した「ジェノサイド国家中国の真実」を紹介した。その3人の著者のうちの一人でモンゴル出身の楊海英静岡大学教授が、故郷内モンゴル自治区での中国政府の所業を書いたのが本書(2018年発表)であ…

全ての歴史は現代史である

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が好調だという。何十年も大河ドラマを見ていない僕が見るくらい、三谷脚本の面白さは抜群だ。鎌倉幕府創設の舞台裏で、どんなことが起きていたか気づかされることも多い。 ただ歴史というのは、一辺を切り取っても十分な理解…

個艦優越に賭けた決戦兵器

光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「駆逐艦」である。すでに「特型駆逐艦雷海戦記」を紹介していて、艦隊決戦の花形として建造され厳しい訓練を重ねながら、期待ほどには戦果を挙げられなかった帝国海軍駆逐艦隊のことは記している。 「車引き」の戦果…

「Wuhan」が大変なことに・・・

今も続く「COVID-19」禍。一時期「ゼロコロナ政策」が上手くいっているかのように見えた中国でも、このところ<オミクロン株:BA2>のように感染力の強いウイルスが蔓延し、上海・西安など大都市がいくつもロックダウン状態にある。全ては2020年1月「武漢:W…

東トルクメニスタンで起きていること

昨日「中国人のお金の使い道」で、この10年間の中国の都市部・沿海部の繁栄ぶりを紹介した。その辺りにはまだ微笑ましい部分もあるのだが、内陸に目を転じると許しがたい状況も見えてくる。以前からチベットの弾圧やモンゴルへの圧力は知られていて、最近新…

戦場を制したもの(1942)

以前この前の巻「西方電撃戦」を紹介した、雑誌「丸」に掲載された記事を取りまとめたものの第二巻が本書。前巻同様、第二次世界大戦の19の戦車戦をつづったものだ。時期は1942年で、内訳は、 ・北アフリカの戦い 9 ・ロシア南部の戦い 7 ・ロシア北部の戦…

陸の王者、1910~1945

光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「戦車戦」である。「戦車」でないのは、戦車と言うものを支える技術や装備についてがメインではなく、戦場で戦車がどう使われたのかが中心になっているから。個別の戦車については、別ブログでアバロンヒルの精密陸…

ロシアの本質は帝国主義

2日続けて、ロシアを巡る日米の軍事スリラーを紹介してきた。事実は小説より奇なりということわざもあるが、現実にロシア・ウクライナ戦争が起きて1ヵ月になり、国際情勢は激変した。2014年にはロシアのクリミア進駐があり、マレーシア機撃墜騒ぎもあった…

経営者が戦史を学ぶ意味

本書は少し古い(2000年出版)本だが、バブル崩壊後の日本経済、というより企業の迷走を見て警鐘を鳴らすべく書かれたものである。主筆の江坂彰氏は経営コンサルタント、対談相手の半藤一利氏は歴史家である。 冒頭、旧日本軍は情報と補給の重要性を顧みなか…

もう2年も経ったのかと・・・

本書は日経編集委員、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」MCである滝田洋一氏が、2020年1~4月の世界の「COVID-19」対応をレポートしたもの。WBSのアカウントでのその時々のツイートが、数多く引用されている。 今も米国では毎日50万人の新規感染者が出…

先端制御技術1940

著者は東北大学工学部電気工学科卒、海軍造兵中尉に任官し終戦時海軍中佐。戦後松下電器でテレビ事業部技術本部勤務など関西ビジネス界の発展に貢献した人である。表題は「軍艦メカ開発物語」となっているが、内容はもっぱらエレクトロニクス、特に制御系の…

夢想家と天才技術者がいて・・・

戦争を主にテクノロジーの視点から分析し、あくまで客観的な情報から当時起きていたこと、起きたかもしれないことを再現することにかけて、筆者(三野正洋日大講師)は一流の歴史・技術者だと思う。本書は筆者の得意な、第二次世界大戦中に開発・運用された…

日本人が忘れた「武」の摂理

今、ウクライナが義勇兵を求めていて、応募する日本人もいるという。多くは自衛隊の経験者、特殊部隊にいた人もいるに違いない。2016年発表の本書は、海上自衛隊の特殊部隊創設者である伊藤祐靖氏の著書。柘植久慶の小説に、戦闘能力の高い日本人が海外で大…

戦争という仕事の9割

1977年発表の本書は、ヘブライ大学教授で歴史学者のマーチン・ファン・クレフェルトが、16世紀以降の欧州における軍事行動を「兵站」に着目して整理した書。著者は発表当時31歳の若手学者だが、深い洞察と明快な語り口で俗説を「斬って」いる。 「戦争のプロ…

艦隊決戦のための可潜艦

光人社NF文庫の兵器入門シリーズ、今月は「潜水艦」である。すでに同文庫の「本当の潜水艦の戦い方:中村秀樹著」は紹介しているので、重複のないように第二次世界大戦までの日本と各国の潜水艦について記しておきたい。 隠密性が命の難しい艦種 - 新城彰の…

戦前民主主義のピーク

1936年と言えば「2・26事件」が勃発し、クーデターそのものは失敗に終わったものの以後軍政が強くなり、日本は日中戦争から太平洋戦争へと傾斜していったメルクマールの年だ。後世の評価ではもっぱら悪者は陸軍、「皇道派」と「統制派」の対立もあり、血なま…

戦えなかった翼

何度か第二次世界大戦前後の航空機開発事情や、マイナーな航空機を特集した本を紹介している。今回は日本の戦闘機に絞って、しかも試作のみに終わるなどして空で戦うことができなかった機体を紹介したい。 制空権なきものは必ず敗れるわけで、制空の主役は戦…

世界で2番目に古い職業

本書はジャーナリストから国際政治学者になった松本利秋氏が、2005年に発表したもの。以前からその傾向はあったのだが、国家間紛争に正規軍ではなく「傭兵部隊」が進出してきていて、21世紀にそれが顕著だという。目立つのは米国の「テロとの戦い」、先ごろ…

どこか令和に似た時代

大正時代というと、15年と短かったこともあり、華々しい明治と激動の昭和に挟まれて、あまり目立たない時代である。本書は歴史人口学の視点から、2人の研究者が大正時代を分析したものだ。歴史人口学(デモグラフィ)だから、拠って立つのは「人口動態」。…

戦争省電信室、1861-65

本書(2006年発表)の冒頭、9・11以降のイラク・アフガン戦争を戦っている米国ブッシュ政権の支持率が低下していて、大統領は再三リンカーン大統領を引き合いに出して市民を鼓舞しているとの記事がある。本書の著者で国際報道のベテラン内田義雄氏は、米国の…

「この名前ってなぜ」で分かる歴史

<ニューオリンズ>という街が米国にあるが、その語源が「新しいオルレアン」だと聞いたのが、僕が最初に地名に興味を持ったきっかけ。まだ学生時代のことだった。その後ある文字が付いているところは、かつては沼で洪水が多いと不動産屋から聞いたこともあ…

兵は詭道なり

孫子の兵法にこのような言葉がある。人類の歴史に戦争はつきもの、その始まりの頃から「戦いは騙し合い」だったということだ。これはサイバー戦争の時代となった今でも変わりはない。本書には詳しく語れば1冊の本になるエピソードが、多数詰め込まれている…

大国の資格としての饗宴

2007年発表の本書は、おおむね2000年以降の大国元首の外国訪問を例にとり、その場で出された料理とワインについてコメントしたものである。著者の西川恵氏は、毎日新聞の専門編集委員。各地の海外支局勤務を経て、外信部長になった人。「エリゼ宮の食卓」な…

150年前から中国は主役

本書の著者平間洋一氏は、海上自衛隊で「ちとせ」艦長なども務めた人。防衛大学校教授・図書館長などを経た歴史・軍事史の専門家である。2000年発表と少し古い本だが、21世紀日本の外交スタンスはどうあるべきが書かれていて、今に至るも(至ったからこそ)…

最も美しい戦艦

第一次世界大戦に敗れ、海軍の艦船保有に制限を設けられることになったワイマール共和国だが、シェットランド沖海戦に臨んだような大艦隊を夢見る人は多かった。当時世界最大の海軍だった大英帝国の主力艦隊を正々堂々迎え撃ち、ほぼ引き分けの結果を得たこ…